研究課題/領域番号 |
17H01371
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
新堀 雄一 東北大学, 工学研究科, 教授 (90180562)
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研究分担者 |
桐島 陽 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (00400424)
千田 太詩 東北大学, 工学研究科, 講師 (30415880)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 原子力エネルギー / バックエンド / 放射性廃棄物 / 地下管理・処分システム / セメント系材料 |
研究実績の概要 |
・検討事項(1): セメント系バリアの流動場における核種閉じ込めの安定性 当初の予定通り、液固比の小さい流動場を実現するために、マイクロフローシステムにより初期80μmの幅の流路を構築し、そこにCa含有高アルカリ水を連続的に注入することにより花崗岩表面でのカルシウムシリケート水和物(以下,CSHと略記)の形成過程を追跡した。亀裂内の浸透性の減少過程から見かけの析出速度定数を評価した結果、レイノルズ数Re=0.6~60の範囲において、見かけの析出速度定数はRe=0.6の場合に比較してRe=60の場合は一桁小さい値となるものの、実際の地下水流動(Re=1.0以下)において、亀裂内にCSHが十分に形成されることを確認できた。 ・検討事項(2):核種閉じ込め機能のメカニズム 蛍光寿命の測定からCSHと強く相互作用しているEuを用いて、Euを含まないCSHとの違いを示差走査熱量およびラマン分光により調べたところ、顕著な差異は得られなかった。他方、ヨウ化物イオンとヨウ素酸イオンとの比較では、後者の方がCSHと強い相互作用を示した。これは、CSHの水和水に溶存する形でCSH中に存在するヨウ化物イオンとは異なり、ヨウ素酸カルシウムイオンの生成によりCSHとのシリカ四面体との相互作用が大きく寄与すると考えられる。なお、収着分配係数はほとんどの場合において10 ml/g以上を示し,従来の安全評価に用いられている0.1 ml/gと比較しても十分に大きい。 ・検討事項(3):最適なセメント組成および細骨材の組み合わせ 当初の予定通り、細骨材としてハイドロタルサイト(以下,HTと略記)を用いた。層間の陰イオンである炭酸成分は、加熱することによりその構造を分解しながら離脱するが、水和させると構造が復元することをX線回折により確認した。このような養生したHTは、海水系地下水に比べて淡水系地下水では、より多くのIを収着することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度では、温度の影響もReに反映させることにより、Reと見かけの析出速度定数との関係を統一的に表し、析出速度定数から見かけの活性化エネルギーも評価でき、今後、固相からのケイ素の溶出速度との比較が可能となった点は本研究の大きな進展となる。ここで、見かけの析出速度定数は時間に伴う流路の浸透性の減少から求めるが、その際に、流体の粘度を含む透水係数ではなく、粘度と分離した浸透率を用いることが有用であった。 また、実験結果において、流速が大きくなると、流路内の浸透率は、顕著に上昇と下降を繰り返し、次第に低下した。このことは、流路内において目詰まりした一部のCSHが系外に流出するものの、次第に流路に堆積していくことに調和的であり、流路に形成されるCSHが、化学的バリアのみならず、物理的なバリア(遮水効果)の役割も期待できることを意味する。なお、実際の流路長は、実験系より明らかに長く、本実験結果に比較して浸透性はさらに低下すると予想される。 さらに、ヨウ素の化学形態は酸化雰囲気になるとヨウ素酸イオンになり、その形態とCSHとの相互作用が強いことは、浅地層や中深度地下を利用する廃棄物の管理・処分によるヨウ素の閉じ込め効果も期待できる。 加えて、細骨材としての候補としたハイドロタルサイト(HT)の加熱による陰イオンとの相互作用を促進する処理の中で、HTの浸潤による構造の再生を確認することができた。このことは、CSHとHTとの共存下でのヨウ素との競争反応を把握する基礎となり、HTの役割を評価する上で、本研究を大きく前進させる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定に従い、計画以上に進展した知見を反映しながら、以下の検討を進める。 ・検討事項(1) セメント系バリアの流動場における核種閉じ込めの安定性:昨年度の検討を継続する。特に、CSH形成に伴う浸透性低下に及ぼすCa濃度および流速の影響を系統的に評価するとともに、形成されるCSHの成長過程を考察する。後者では、CSH層の成長には地下水に含有するCaと花崗岩表面から高pH環境において溶出するSiとの反応が連続的に生じる必要があり、花崗岩表面を覆うCSH層自体がCSH層の成長を阻害するか否かに着目する。 ・検討事項(2) 核種閉じ込め機能のメカニズム:塩水系地下水に着目し、Naやセメントに含まれるAlなどの妨害成分が共存する場合のCSHの形成とヨウ化物イオンおよびヨウ素酸イオン(陰イオン)との相互作用を、CsやEuのような陽イオンとの比較しながら調べ、CSHによる核種閉じ込めのメカニズムを明らかにする。その際、地下冠水環境を考慮し、二次鉱物のCSHとして最も安定なCa/Siモル比0.8を中心に検討を行い、Ca/Si比>0.8の系(ポルトランダイト共存系)やCaの供給が地下水の溶存成分によって制限されるCa/Si<0.8との比較を行う。なお、EuのCSHとの相互作用は蛍光スペクトルによって評価する。 ・検討項目(3) 最適なセメント組成および細骨材の組み合わせ:昨年度に引き続き、細骨材としてハイドロタルサイト(HT)に着目し、ヨウ素(ヨウ化物イオン)との相互作用をCSHと共存させた系で検討を行い、それらの組み合わせの基礎的な知見を得る。その際、昨年度の成果を基に、HTからあらかじめ炭酸成分を加熱により取り除き、陰イオンとの相互作用を促進する状態を初期の条件とする。今後、ラマンスペクトルを用いて、HTとCSHが混在することによるCSHの解重合(構造変化)にも着目する。
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