研究課題
検討事項(1)セメント系バリアの流動場における核種閉じ込めの安定性:昨年度に引き続き、花崗岩のブロックを用いたマイクロフローセルにより初期80μmの幅の流路にpH>11のCa含有高アルカリ水を連続的に注入し、特に、CSH形成に伴う浸透性低下に及ぼすCa濃度および流量の影響を評価した。その結果、Ca注入濃度が0.3~0.8 mMの範囲においてCSHの析出速度に及ぼすCa注入濃度の影響は小さく、CSHの析出速度は何れの場合も0.01 mmol/hのオーダとなった。このことはSiの花崗岩からの溶解速度にCSHの析出速度が支配されることを意味する。また、流量0.1 mL/h以上に設定すると系外に析出したCSHを押し出し、CSHのみかけの析出速度定数が顕著に減少した。検討事項(2)核種閉じ込め機能のメカニズム:Ca/Siモル比が0.4から1.6の範囲において、ヨウ化物イオンおよびヨウ素酸イオンの収着分配係数Kdは1mL/g以上となり,従来の安全評価で用いられる値よりも10倍以上の値を示した.特に、ヨウ素酸イオンのKdの値はCa/Siモル比1.6のとき10mL/gを超えた。この傾向はNaイオン濃度0.6 Mまで同様であった。但し、Alイオンの増加に伴い、Caイオンの液相側への溶出が大きくなり、ヨウ素酸イオンの収着量が相対的に減少した。他方、CsとEuのCSHとの相互作用はCa/Siモル比に顕著に依存し、Euについては蛍光寿命より加水分解種でなくCSHへのEuの安定化を確認した。検討項目(3)最適なセメント組成および細骨材の組み合わせ:昨年度に引き続き、細骨材としてハイドロタルサイト(以下HT)に着目し、ヨウ素(ヨウ化物イオン)との相互作用をCSHと共存させた系で検討を行った。今年度はラマンスペクトルおよびX線回折を用いて、HTとCSHが共存することを確認し、HTのpH緩衝効果によるCSHの若干の構造変化があるものの互いの構造に大きな影響を及ぼさないことが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
当研究を通じ、ヨウ化物イオンの濃度(0.5 mM~50 mMの範囲)とCSHへの収着量との関係をも調べると、濃度が高くなると収着量の濃度依存性が小さくなることが明らかになった。これはCSH生成に伴う水和水分子のみならず付着水とともにCSH側に主に存在することを意味する。すなわち、回分式のような閉じた実験系において見かけの収着分配係数Kdの値が1 mL/g以上となっても、地下環境のような処分場の上流から常に地下水流がある開放系では、地下水とCSH内の付着水が置換されることを安全評価においても考慮する必要がある。他方、CSHそのものが花崗岩表面に生成し、透水性を減少させることから、地下水流自体が抑えられ、ヨウ化物イオンの移行速度を低下させる。評価された見かけの析出速度定数(0.1 mm/sのオーダー)は観測される地下水流速に比較して大きい。したがって、核種移行速度は、遅延係数のみならず移流の低下と併せて評価する必要がある。なお、ヨウ化物イオンの場合、前述のようにヨウ化物イオンに比較して化学的な相互作用により収着性が高くなり、CSH自体の析出による浸透性の低下と併せてCa/Siモル比0.4から1.6の範囲にあるCSHの閉じ込め性がより顕著となる。このように化学的相互作用を反映する遅延係数と移流速度を反映する浸透性を整理して総合的に核種移行速度を評価する必要性を、地下環境を考慮した乾燥過程を経ない実験系から明らかにしたことはこれまでになく、予想以上の成果と言える。
本研究では,CSHへのヨウ化物イオンおよびヨウ素酸イオンの安定化機構のダイナミクスを,陽イオンとの相互作用と比較し,液固比の小さい流動場において以下の項目について検討する。検討事項(1)セメント系バリアの流動場における核種閉じ込めの安定性:昨年度に引き続き,液固比の小さい流動場を実現するためにマイクロフローセルを用い,その流動場にpH>11のCa含有高アルカリ水を連続的に注入することにより花崗岩表面でのCSHの形成過程を浸透性および溶離液の成分から評価する。また,本年度は,形成されるCSHの成長過程を考察するために,新たに回分式により,花崗岩からのCaの有無によるSiの溶出挙動をも評価し,亀裂内でのCSHの成長モデルを提示する。検討事項(2)核種閉じ込め機能のメカニズム:本年度は,セメントに含まれるAlなどの妨害成分が共存する場合のCSHの形成とヨウ化物イオンおよびヨウ素酸イオン(陰イオン)との相互作用の違いを明らかにする。そこでは,昨年度と同様に地下冠水環境を考慮し,二次鉱物のCSHとして最も安定なCa/Siモル比0.8を中心に検討を行うとともに,乾燥をさせた試料についてX線回折を行い,Al含有のCSHの形成とヨウ素との相互作用のメカニズムを考察する。検討項目(3)最適なセメント組成および細骨材の組み合わせ:昨年度に引き続き,細骨材としてハイドロタルサイトに着目し,ヨウ素(ヨウ化物イオン)との相互作用をCSHと共存させた系で検討を行う。本年度は,特に,ハイドロタルサイトとCSHによるヨウ化物イオンの収着性についての競合の有無を把握し,最適な混合率について考察する。検討項目(4) 最終取りまとめ:本年度は本研究の最終年度となることから,これまでの(1)~(3)の結果およびその考察を総括する。
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Proceedings of WM2019 (HLW, TRU, LLW/ILW, Mixed, Hazardous Wastes & Environmental Management)
巻: Paper No. 19165 ページ: 1-9
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Applied Geochemistry
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10.1016/j.apgeochem.2018.08.007
http://db.tohoku.ac.jp/whois/detail/a0f21740a16e2fd1eeab1f9ef0b882de.html