研究課題/領域番号 |
17H01372
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関村 直人 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (10183055)
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研究分担者 |
村上 健太 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (50635000)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 原子力材料・核燃料 / 照射欠陥 / イオン加速器 |
研究実績の概要 |
低線量率の中性子照射を受ける原子力材料の中には,数十年かけてようやく変化が発現するものがある。こうした現象への対策では,線量率等を実機と同じ条件に合わせた照射試験が不可能であることから,機構論に基づいて加速照射試験を設計する必要がある。本研究では,原子炉圧力容器(RPV)の照射脆化を例に,組合せ照射とイオン加速器結合型透過電子顕微鏡法(in-situ TEM)を駆使して,長期運転時の照射脆化の主因となるMn・Ni・Siを含む溶質原子のナノクラスタ(MNSクラスタ)の照射下挙動を研究し,望ましい経年劣化管理の在り方を示すことを目指す。 タスク1では,材料試験炉とイオン加速器の組合せ照射技術を開発している。核形成が支配的な低損傷量領域と比較して,高損傷量領域において線量率の違いがナノ組織の発達挙動に与える影響は小さいと考えられる。そこで,比較的実機に近い条件の材料試験炉照射によって核形成を引き起こし,それから高線量率のイオン加速器による追照射で成長させることにより,実機における性質(組成,構造等)を維持したまま,加速的にMNSクラスタの発達挙動を観察できると考えた。平成30年度までに,照射材をマイクロサンプリングしてイオン照射してから,再加工して三次元アトムプローブ用の試料を作成する技術を開発した。そして中性子照射材をマイクロサンプリングして加工し,追照射用の試料を作成することに成功した。 タスク2では,イオン加速器と透過電子顕微鏡を結合したその場観察装置 (in-situ TEM)を利用して,変位カスケードによって形成された高密度の照射欠陥の挙動を捉えることを目指している。平成30年度までに,原子炉圧力容器の模擬材に空孔型および格子間原子型の様々な照射損傷を予め導入してプローブとし,これをin-situ TEMによって追照射に供することで照射影響を観察する技術を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タスク1については,イオン加速器のトラブルにより平成30年度上半期の照射実験ができなかったが,その期間に材料加工技術の高度化を図ることができた。最終的な成果を得る上で三次元アトムプローブ分析装置のマシンタイム及びコンディションが律速因子となるが,現在の状況であれば,おおむね年度内に所定の成果を得られる見込みがある。 タスク2については,空孔型欠陥をプローブとして格子間原子の挙動を評価することに挑戦したが,より敏感なプローブをえる観点から格子間原子型の欠陥もプローブとして使用することにした。予照射と試料作製は順調に実施されており,おおむね年度内に所定の成果が得られる見込みがある。
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今後の研究の推進方策 |
タスク1では,最終的に次の4種類の照射材におけるMNSクラスタの性質を比較し,組合せ照射の有効性を最終確認する。比較対象は,通常の中性子照射材,途中まで中性子照射してからマイクロサンプリングして追加イオン照射した組合せ材,途中までイオン照射してからマイクロサンプリングして追加イオン照射した組合せ材,通常のイオン照射材の4種類である。MNSクラスタのサイズ,数密度,組成などの違いを三次元アトムプローブ分析で評価する。得られた知見から,高照射量領域におけるMNSクラスタの発達挙動を考察する。 タスク2では,今年度は照射欠陥の挙動に対する溶質原子の影響をより明確に捉えることを目指し,格子間原子型の照射欠陥をプローブとした組合せ照射を行って,照射欠陥の成長挙動に対する溶質原子の影響を評価することを目的とする。イオン照射(予照射)によって格子間原子型の転位ループを発達させたFe-Ni-Mn系のモデル合金をマイクロサンプリングしてin-situ TEM内でその場観察しながら追照射に供する。転位ループの成長挙動に対する溶質原子の影響を評価することにより、MNSクラスタの主要構成元素であるマンガン及びニッケルと照射欠陥の相互作用について考察する。空孔型欠陥のその場観察についてもデータを拡充する。 これらの成果を統合することによって,どのようにMNSクラスタが発達していくかを分かりやすく示すことが本研究の最終成果となる。
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