研究課題/領域番号 |
17H01380
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
貝淵 弘三 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (00169377)
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研究分担者 |
永井 拓 名古屋大学, 医学部附属病院, 准教授 (10377426)
天野 睦紀 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (90304170)
西岡 朋生 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (70435105)
黒田 啓介 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (80631431)
船橋 靖広 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (00749913)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経科学 / シグナル伝達 / リン酸化 / プロテオミクス解析 / ニューロモジュレーター / 神経活動 / 情動行動 / 学習・記憶 |
研究実績の概要 |
(1)リン酸化プロテオミクスによる神経伝達物質のリン酸化シグナル解析:マウス線条体スライスへのアデノシンA2A受容体作用薬による刺激やマウス個体への選択的セロトニンの再取り込み阻害剤の連続投与によりリン酸化が変動するタンパク質とそのリン酸化部位を同定した。 (2)リン酸化シグナル伝達の時空間的モニタリング法の開発と応用: MYPT1上のRho-Kinaseのドッキングモチーフ(DM)として推定された配列がRho-Kinaseによるリン酸化に寄与した。また、DM配列のペプチドがリン酸化抑制効果を示した。 (3)リン酸化シグナル分子の分子操作法の開発と応用:cre依存的にRho-Kinase-DNやPAK-AIDを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターをAdora2a-creマウスの側坐核に注入し、ドーパミンD2受容体を発現する中型有棘神経細胞(D2R-MSN)においてRho-KinaseやPAKの機能を抑制したところ、嫌悪学習・記憶が障害された。 (4)神経細胞の膜興奮性を制御する機構の解析:D1Rシグナル伝達により制御されるKCNQ2チャネルのリン酸化修飾の役割をin vivoで明らかにするため、KCNQ2リン酸化部位(S404 & S448)を欠損させた遺伝子変異マウスを作製した。リン酸化部位欠損マウスの線条体スライスにおいてD1R作動薬によるKCNQ2のリン酸化が認められないことを確認した。 (5)シナプス可塑性の制御機構の解析:線条体スライスにおいてNMDA受容体刺激がARHGEF2、ARHGAP21及びARHGAP39のリン酸化を亢進した。これらのリン酸化の亢進はCaMKⅡ阻害剤やNMDA受容体阻害剤の処置により抑制された。 (6)神経可塑性に関与する遺伝子発現機構の解析: D1R-MSN特異的にNPAS4を欠損あるいは機能抑制させたところ、報酬学習・記憶が障害された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)リン酸化プロテオミクスによる神経伝達物質のリン酸化シグナル解析:セロトニンやアデノシン受容体刺激によりリン酸化が変動するタンパク質とそのリン酸化部位を同定し、KANPHOSデータベースに内部データとして登録した。 (2)リン酸化シグナル伝達の時空間的モニタリング法の開発と応用:推定したMYPT1上のRho-KinaseのDM配列がRho-Kinaseによるリン酸化に影響すること、DM配列のペプチドがリン酸化抑制効果を示すことを見出した。 (3)リン酸化シグナル分子の分子操作法の開発と応用: cre依存的にPKA やPKC、CaMKⅡ、Rho-Kinase、PAKの機能を抑制するAAVベクターの作製を完了した。作製したAAVを用いD2R-MSNにおいてRho-KinaseやPAKの機能を抑制したマウスを作製した結果、嫌悪学習・記憶が障害されることを見出した。 (4)神経細胞の膜興奮性を制御する機構の解析:CRISPR/Cas9遺伝子編集技術を用いてMAPKによるKCNQ2リン酸化部位を欠損させた遺伝子変異マウスを作製した。リン酸化部位の欠損をシーケンス解析で確認するとともに、リン酸化部位欠損マウスの線条体スライスにおいてD1R作動薬によるKCNQ2のリン酸化が認められないことを見出した。 (5)シナプス可塑性の制御機構の解析:新たにリン酸化抗体を作製し、NMDA受容体刺激がCaMKⅡ依存的にARHGEF2、ARHGAP21及びARHGAP39のリン酸化を亢進することを見出した。 (6)神経可塑性に関与する遺伝子発現機構の解析:MAPKが転写因子NPAS4をリン酸化することで、NPAS4とCBPとの結合が増加し転写活性が上昇すること、D1R-MSNにおいてNPAS4が報酬学習・記憶を制御することを明らかにした (Funahashi et al. Cell Rep. 2019)。
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今後の研究の推進方策 |
(1)リン酸化プロテオミクスによる神経伝達物質のリン酸化シグナル解析:引き続き、神経伝達物質の受容体作動薬によってリン酸化が変動するタンパク質を同定し、パスウェイ解析により各受容体の刺激に応答するシグナル経路を特定する。 (2) リン酸化シグナル伝達の時空間的モニタリング法の開発と応用:MYPT1のDM配列を基に、Rho-kinaseの機能抑制ペプチドや活性モニターツールの作製・評価を試みる。 (3)リン酸化シグナル分子の分子操作法の開発と応用:cre依存的にPKAやPKC、CaMKⅡの偽基質配列を発現するAAVベクターを神経細胞種特異的に発現させ、PKAやPKC、CaMKⅡの活性を抑制し、情動行動・学習への影響を評価する。また、LOV-Trap法を用い光刺激依存的にin vivoでPKAやPKC、CaMKⅡの活性を制御する分子ツールの開発を進める。 (4)神経細胞の膜興奮性を制御する機構の解析:KCNQ2チャネルのリン酸化修飾の役割をin vivoで明らかにするため、リン酸化部位欠損マウスを用いて神経膜興奮性やKCNQ感受性電流を電気生理学的に評価する。 (5) シナプス可塑性の制御機構の解析:Rho-KinaseやSHANK3のコンディショナルノックアウトマウスを用い、側坐核のD1R-MSNやD2R-MSN特異的にRho-KinaseやSHANK3を欠損させ、情動行動・学習への影響を評価する。SHANK3のリン酸化部位変異体を発現するAAVベクターを用い、樹状突起スパインの形態やPSD95などの足場タンパク質との相互作用、AMPA型受容体やNMDA型受容体の膜上への局在を解析する。 (6)神経可塑性に関与する遺伝子発現機構の解析:MKL2-DNを発現するAAVを用い、D1R-MSN特異的にMKL2の機能を抑制したマウスを作製し、情動行動・学習への影響を評価する。
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