研究実績の概要 |
研究計画書記載の下位目標(1)(2)において顕著な成果が得られた(Miyamoto et al., Neuron, in press 2017)。即ち、マカクサルに「経験したことがない」というメタ記憶判断を行わせる行動課題を確立し、当該行動課題を用いて磁気共鳴機能画像法(functional Magnetic Resonance Imaging法; fMRI法)によって、「経験したことがない」というメタ記憶判断に係る大脳メタ記憶大域神経回路を同定した。「経験したことがある」というメタ記憶判断に係る大脳メタ記憶回路が大脳前頭葉9野に見出されたのと異なり、「経験したことがない」というメタ記憶判断に係る大脳メタ記憶回路は大脳前頭葉10野に見出された。fMRI法で同定された大脳前頭葉10野の神経活動をGABA-Aアゴニスト微小注入で抑制すると、「経験したことがない」というメタ記憶判断だけに特異的なメタ記憶障害が引き起こされた。「経験したことがある」というメタ記憶判断の障害は起こらなかった。またメタ記憶障害は起ったが、「狭義の記憶システム」には影響が及ばず、記銘・想起自体は障害されないことも判明した。これらの結果に基づき、メタ記憶判断の大脳大域神経回路モデルを提起した。更に研究計画書記載の下位目標(2)の技術的基礎となる霊長類光遺伝学の技術開発においても大きな成果が得られた(Tamura et al. Science 357, 687-692, 2017)。目にした物体が「なじみ深い」か「目新しい」かという相反する印象の判断が、大脳側頭葉の神経細胞が出力する信号の増減によって決まることを、マカクサル光遺伝学による神経活動操作で明らかにした。この結果は、ヒトが、目に入る情報の価値を経験と嗜好に基づいて主観的に評価して行動するメカニズムの解明に繋がると期待される。
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