研究課題
申請者らの作製した細胞老化促進マウスである非分解型Claspin発現トランスジェニックマウスを、発がん促進マウスであるAPCmin/+およびPdx/KrasG12D/+マウスと交配することで、これらマウスの発がん過程における細胞老化の役割を解析した。その結果、ClaspinTG/APCmin/+マウスにおいては、コントロールであるAPCmin/+マウスと比較して顕著に小腸ポリープの数が減少していた。一方、ClaspinTG/Pdx/KrasG12D/+マウスにおいては、コントロールのPdx/KrasG12D/+マウスに比較して顕著に膵臓腫瘍の発生が促進していた。これらの結果は、細胞老化が個体内において発がんシグナルに依存して腫瘍促進にも抑制にも働きうることを示している。この分子基盤として老化細胞の示す特性であるSASPが腫瘍促進に機能すると考えられるが、SASPを特異的に抑制可能なマウスを作製しており、ClaspinTG/Pdx/KrasG12D/+と交配することで、個体内における老化細胞の腫瘍促進がSASPを介しているかどうかを解析中である。一方、発がん過程において老化細胞が個体内でどの時期に、どの臓器に、どの程度出現するのかを明らかにする目的で、p16老化細胞可視化マウス(p16-CreERT2-ROSA26-tdTomatoマウス)を作製した。さらに、各臓器、組織において時期特異的に細胞老化を誘導できるマウスを作製した(CreERT2-ROSA26-p53TSD/K117R-gemマウス)。現在、これらのマウスを用いて、炎症・がん遺伝子活性化などの刺激特異的な老化細胞の役割を解析している。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで世界的に個体内においてどこに老化細胞が存在しているかについては、蛍光標識による老化細胞可視化が不可能であったため、その詳細についてはほとんど分かっていなかった。このことが、個体の発がんにおける細胞老化の役割を明らかにする解析の大きな障壁となっていた。H29年度、H30年度この問題を克服するために、p16陽性老化細胞を蛍光可視化するマウスの作製を目指した。唯一内在性p16遺伝子座のp16プロモーターの下流にCre遺伝子を挿入して、発現したCreによりCMVプロモーターで駆動可能なtdTomatoマウスを作製した。このマウスではp16の発現誘導に伴い、tdTomatoによる蛍光が容易に検出できたため、世界で初めて個体レベルで老化細胞の可視化や単離が可能となった。この技術開発により細胞老化が飛躍的に進歩するものと期待できる。実際、現在では様々な発がん過程において、いかなる時期のいかなる場所に老化細胞が出現するのかが解析でき始めており、微小環境変化についても明らかになりつつある。
個体発がんにおける老化細胞の役割を明らかにする目的で、H29年度、H30年度申請者らにより作成された、1.老化細胞可視化マウス、2.部位・時期特異的細胞老化誘導マウスを用いて、発がん促進マウスと交配することで解析を進めている。とりわけ老化細胞可視化マウスでは、大腸発がん、膵臓発がん、胃発がんモデルと交配中であり、これらの発がん過程における老化細胞の役割を、1細胞解析などにより解明する予定である。1細胞解析では、発がん過程においてどのような正常細胞が老化するのか?またその刺激は何かという点について、個々の老化細胞の発現プロファイルを解析することで明らかになると考えている。さらに、部位特異的な細胞老化誘導から、どの時期(若年、AYAあるいは老年期)が最も細胞老化が発がん過程に影響を与えるのかについても解析できると考えている。一方、昨年度に実施した細胞老化促進マウスと発がん促進マウスとの交配実験については、すでにp16遺伝子座に非分解型IkB発現マウスを作製済みであり、これを用いることで膵臓癌モデルにおいて老化細胞が腫瘍形成を促進する効果が、SASPによるかどうかについて明らかにできると考えている。これらマウスについては全て作製済みであり、また交配もほぼ完了しているので、H31年度は腫瘍形成や悪性かについて解析を進める予定である。
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