研究課題
本研究では、(1)Hippo経路の個体における機能と活性化機構、(2)p53を下流標的とする核小体ストレス経路の鍵分子PICT1の機能と制御機構、(3)PTENの新規制御機構を解明して、癌抑制遺伝子研究を新展開させる。平成29年度には以下の成果を得た。(1)Hippo経路分子群の全貌解明研究と癌治療戦略:(a)Hippo経路の生理作用とその破綻病態の解明: ショウジョウバエにおいてHippo経路は個体のサイズを制御することから、軟骨細胞特異的なMOB1欠損マウスを作成したところ、下流のYAP1の活性化により、軟骨細胞のマスター制御因子SOX9の転写発現低下をみ、予想に反して軟骨異形成症を呈することを見出した。軟骨以外の組織特異的MOB1欠損マウスの作製も完了し、現在解析をはじめている。(b)Hippo経路を制御する分子の同定:YAP1活性レポーター細胞株にsiRNAライブラリーを遺伝子導入して、YAP1を強く制御する分子の一次スクリーニングを行った。(2)p53経路制御に重要なPICT1の機能とその制御機構の解明:PICT1安定化制御分子の探索:質量分析機器等を用いて、PICT1と複合体を形成する蛋白質をそれぞれsiRNAで抑制し、PICT1の安定化に関わる蛋白質RPXを単離し、RPXがPICT1と直接結合すること、RPXがなくなるとPICT1が不安定化し、核小体ストレス機構が作動してp53を上昇させることまで見出した。(3)PTENの制御機構研究:新規PTEN安定化制御因子の同定:EGFP-PTENを安定発現させた細胞にsgRNAライブラリーを導入し、EGFP蛍光が増強する細胞群をFACSにて分離してバーコード配列をPCRにて増幅した後、次世代シークエンサーを用いてPTENを不安定化する分子の一次スクリーニングを終えた。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要にあるように、本研究はほぼ順調に進んでいる。
今後は下記のように研究をすすめる。(1)Hippo経路分子群の全貌解明研究と癌治療戦略:(a)Hippo経路の生理作用とその破綻病態の解明:本年度はHippo経路の頭頚部における機能を解析するために、舌組織に特異的なMOB1欠損マウスをそれぞれ作製・解析し、これらの表現型が、YAP1,TAZにどの程度依存するのか、細胞増殖・細胞死・細胞分化・接触抑制・遺伝子や染色体安定性などのどの現象が障害されて生じたのか等を検討する。また生化学的に表現型形成の主役になるHippo経路下流分子を特定する。(b)Hippo経路を制御する分子の同定:siRNAはoff-targetが多いことから、平成29年度に見出したYAP1を強く制御する候補分子については、複数の異なるsiRNAでさらに二次スクリーニングし、次にsgRNAを用いて三次スクリーニングを行った後に、細胞生物学的特徴を解明する。(2)p53経路制御に重要なPICT1の機能とその制御機構の解明:(a)PICT1安定化分子の探索: PICT1と結合しその安定化に関わるRPXを単離した。今後はRPXによるPICT1制御の詳細な機構や、RPXの制御機構を解明する。(b)核小体ストレス可視化:rRNAやリボソーム蛋白質などが減少する、いわゆる核小体ストレスが起こるとRPL11がMDM2と結合して、p53を活性化させる。そこでRPL11とMDM2の結合を可視化させる系を作成し、新たな核小体ストレス活性化刺激を同定する。(3)PTENの制御機構研究:新規PTEN安定化制御因子の同定:sgRNAライブラリーの導入によってPTEN発現量が増加するsgRNAを一次スクリーニングで得たため、本年度は実際PTENが増強してAktが抑制されるかの2次スクリーニングを行い、PTEN不安定化分子を複数確定する。
すべて 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 2件、 査読あり 10件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 9件)
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