研究課題
脂肪細胞など、がん組織中に存在する種々の間質細胞は、サイトカイン等の刺激によって活性化し、腫瘍微小環境の主要な構成要素である癌関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblast: CAF)へと分化する。これまでに、CAFの起源や特性については明らかにされつつあるが、CAFの分化を決定する分子機構は未解のままである。研究代表者らは最近の成果から、アクチン動態により制御される転写調節因子MKL1が体細胞のリプログラミングを誘導すること、さらにそのプロセスにおいて細胞をCAFへと転換することを見出しており、MKL1がCAF分化を決定するマスターレギュレーターとして働くことを示している。本研究は、CAF分化制御機構を解明するとともに、MKL1およびアクチン動態を制御することでCAFへの分化を阻害し微小環境制御により腫瘍抑制するという新たな治療の開発を目的として実施する。平成29年度では、まず始めに、CAF分化過程においてMKL1が関与するか検証した。線維芽細胞あるいは間葉系幹細胞に骨肉腫人工幹細胞(骨肉腫iCSC)の培養上精を添加すると、MKL1の核移行及び転写活性が促進され、CAF分化マーカーであるalpha-SMAの発現が著しく増加することが分かった。これらの結果から、MKL1が種々の間質細胞からCAFへの分化制御に普遍的に関わることが強く示唆された。次いで、アクチン動態によって制御されるMKL1を分子標的として、CAFへの分化を阻害し腫瘍形成性を低下させることのできる化合物の取得を試みた。その結果、くも膜下出血治療薬Rhoキナーゼ阻害剤Fasudilが、アクチン脱重合を介してMKL1の核移行を阻害し、転写活性を抑制することを見出した。また、骨肉腫iCSCを移植したマウスにおいて、Fasudilを腹腔内投与すると、腫瘍体積が有意に減少し縮小効果を示した。
1: 当初の計画以上に進展している
種々の間質細胞(線維芽細胞および間葉系幹細胞)がCAFへと分化するプロセスにおいて、MKL1の核移行及び転写活性化が普遍的に促進されることを見出した。また、ROCK阻害剤Fasudilが、in vitro実験においてMKL1の核移行及び転写活性を抑制することを示した。さらに、骨肉腫iCSC移植モデルにおいて、FasudilはCAFの分化を抑制し腫瘍縮小効果を示すことも明らかにしており、Fasudilを含むROCK阻害剤はシーズとして有力な候補になると期待できる。
本年度において、MKL1が、種々の間質細胞からCAFへと分化するプロセスに関わることを見出したので、MKL1がどのような分子機構で間質細胞からCAFへの分化を制御するのかを明らかにするために、MKL1と共に働く転写因子さらにはその標的分子の同定を試みる。また、候補分子を発現誘導およびノックダウンすることで、CAF分化状況さらには腫瘍形成性に及ぼす影響について検討する。同時に、本年度において見出したリード薬のFasudilが、通常の抗がん剤の効果を増強できるかについて検討を行うとともに、その分子メカニズムを明らかにすることで臨床試験に向けての基盤を固める。
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