研究課題
本研究は、相同組換えの過程における、クロマチン構造上での相同鎖検索機構の解明を目的としている。相同組換えは、ゲノムDNAの二重鎖切断損傷の修復や減数分裂期の遺伝的組換えに必要な機構である。その際、RAD51およびDMC1は、損傷部位に形成された単鎖DNAと相同な二重鎖DNAの検索と相同的対合を触媒するが、クロマチン構造上における相同的対合反応の分子機構は明らかではない。本年度は、減数分裂期組換えにおけるSYCP3による相同的対合反応の制御に着目した。SYCP3は減数分裂期特異的な染色体構造であるシナプトネマ複合体の構成因子であり、減数分裂期組換えの推進に重要である。本研究では、リコンビナントタンパク質として精製したSYCP3を用いて、SYCP3がRAD51とDMC1の相同的対合反応活性に及ぼす影響について試験管内相同組換え系によって解析を行った。その結果、SYCP3は、DMC1依存的な相同的対合反応は阻害しないが、RAD51依存的な相同的対合反応を特異的に阻害することが明らかになった。また、二重鎖切断損傷の修復に必要となるクロマチンの基盤構造の解析に取り組んだ。ゲノムDNAが凝縮したヘテロクロマチン上に生じた二重鎖切断領域では、ヘテロクロマチンタンパク質HP1が速やかに集積することで、相同組換え修復が促進されると考えられている。そこで、リンカーDNAで繋がった2つのヌクレオソームにHP1が結合した複合体のクライオ電子顕微鏡による立体構造解析を行った。その結果より、HP1が結合したヌクレオソーム複合体は、修復因子の集積が可能な構造であることを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究は、クロマチン上での相同組換えの機構の解明を目的として、生化学的、構造生物学的観点から遂行している。本年度は、クロマチンでの相同鎖検索において、RAD51とDMC1の相同対合反応活性がSYCP3によって異なった制御を受けていることを生化学的解析により明らかにした。その成果を学術論文として報告した。また相同的対合反応で、RAD51と共同して機能するRAD52が、損傷領域に形成される1本鎖DNAに結合した複合体のX線結晶構造解析に成功し、2種類の結合様式を学術論文に報告した。これらの成果は、クロマチンでの相同組換えの分子機構の解明に大きく貢献している。近年、クライオ電子顕微鏡を用いた立体構造解析において、技術革新があり、近原子分解能の立体構造解析が可能になった。この技術は本研究の目的である、クロマチン上での相同組換えの機構を構造生物学的観点から解明するために、非常に有効であり、この技術をクロマチン構造に適用することが急務であった。そこで、本年度は、クライオ電子顕微鏡を用いた、ヌクレオソームとその相互作用因子の複合体の立体構造解析を行うためのサンプル調製法および測定法の開発についても行った。その結果複数例のクロマチン構造解析に成功し、その成果の一部を2報の学術論文にて報告した。以上の成果より、本年度の研究は当初の計画以上に進展したと言える。
今後は、ヌクレオソーム上におけるRAD51の相同鎖検索機構を原子レベルで明らかにするために、RAD51-単鎖DNA-ヌクレオソーム複合体の立体構造解析を、X線結晶構造解析またはクライオ電子顕微鏡解析によって行う。まず、RAD51-単鎖DNA-ヌクレオソーム複合体を調製し、グルタルアルデヒドやホルムアルデヒドなどの架橋剤を用いて、安定的な複合体の調製方法を検討する。得られた複合体サンプルは透過型電子顕微鏡(東京大学現有)を用いたネガティブ染色法により観察し、測定条件の最適化を行う。クライオ電子顕微鏡による観察は、共同研究者である沖縄科学技術大学院大学のMatthias Wolf博士のもとで行う。並行して、RAD51-単鎖DNA-ヌクレオソーム複合体の結晶化について結晶化ロボットを用いた大規模スクリーニングを行ない、結晶化の条件検討を行う。得られた単結晶は、大型放射光施設SPring-8またはPhoton Factoryにて回折実験を行ない、良質な結晶についてはデータセットを取得する。そして、RAD51-単鎖DNA-ヌクレオソーム複合体の立体構造を明らかにすることで、RAD51によるヌクレオソーム上での相同鎖検索機構を明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 4件、 招待講演 15件) 図書 (2件)
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