細胞が分化や外部からのシグナルに応答する際に遺伝子発現が変動するが、これらの刺激に応じたクロマチンレベルでの遺伝子発現制御機構については未だに不明な点も多い。本研究は、転写活性化と不活性化におけるヒストン修飾の意義を理解するために、申請者らが独自に開発した生細胞の翻訳後修飾可視化系にゲノム可視化系を組み合わせることで、(I)熱ショックストレス誘導性転写活性化におけるクロマチン構造変化の役割、及び、(II)X染色体の不活性化に伴うヒストン修飾動態、を明らかにすることを目的として行った。 (I)熱ショックストレスに応答した内在性転写単位の活性化メカニズムの解析:昨年度までの解析により、Sat3領域のヒストンH3K9のメチル化とH3K27のアセチル化を変化させたときの熱ショック応答やクロマチン構造変化を明らかにした。今年度は、Sat3領域の動態についても解析を進め、熱ショック応答によるヒストン修飾の制御と転写活性化の機構に関して論文としてまとめている。 (II)細胞分化・脱分化に伴うX染色体の不活性化と再活性化におけるクロマチン動態の解析:昨年度までの研究で、複数のX染色体領域とヒストン修飾可視化プローブ(H3K27me3-mintbody及びH4K20me1-mintbody)を同時に可視化できる雌ES細胞を樹立し、細胞分化に応答してX染色体上へこれらの修飾が集積する様子を確認した。また、X染色体の凝縮状態に関する解析も行った。今年度は、これらの解析結果を取りまとめ、論文として発表した。また、H4K20me1-mintbodyを発現するマウスを用いて、生殖細胞分化に伴うヒストン修飾動態の解析を行ない、H4K20me1がXYボディに濃縮するダイナミクスを明らかにした。
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