研究課題/領域番号 |
17H01424
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
今泉 和則 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 教授 (90332767)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / シグナル伝達 / 細胞生物学 / 小胞体ストレス |
研究実績の概要 |
本研究課題では、小胞体ストレスセンサーから発信されるシグナルが制御する多様な生理現象の分子機構を解明するとともに、小胞体とそれ以外のオルガネラが連携して生じる新たな生理的小胞体ストレス応答の分子機構解明を目指す。今年度は以下のことを明らかにした。1)小胞体ストレスセンサーOASISの解析;OASISはアストロサイトを長期間培養することで誘導されてくる遺伝子の1つである。細胞老化におけるOASISの働きを調べた。①DNA損傷した細胞において転写レベルで誘導されるとともに、プロテアソームからの分解回避も生じており、タンパク質レベルで高度に発現上昇する。②ジーンチップおよびRNAseqなどにより、OASISの転写ターゲットの同定を試みた。その結果、昨年度までに同定できていたp21に加え、小胞体-ゴルジ間輸送に関わる遺伝子やsenescense-associated secretory phenotype(SASP)に関連する複数の遺伝子を同定することに成功した。③OASIS欠損アストロサイトでは、DNA損傷後も細胞老化を起こさず細胞周期を維持したまま増殖する現象を見出した。以上の結果から、OASISはDNA損傷時に細胞老化を起こす主要な因子であることがわかった。2)ムコ多糖症原因分子イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)の解析;変異IDSは小胞体関連分解によって速やかに分解を受けるため、本来の局在場所であるリソソームに局在できず、グリコサミノグリカン分解ができないことを証明してきた。本成果を応用し、ハイコンテンツイメージングアナライザーを用いて、変異IDSをリソソームに局在させる化合物を既存薬ライブラリーからスクリーニングした。その結果、複数の化合物が変異IDSをリソソームに局在させるとともに、酵素活性の回復を促す活性があることも証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績の項目で記載したように、計画した実験の多くが予定通りに進行している。1)の研究からは、小胞体ストレスセンサーOASISの新機能が発見でき、細胞老化というトピックな研究領域に新たな切り口で研究展開できることになった。2)ではムコ多糖症の有効な治療法がない中、ERADからの分解回避および小胞体からゴルジ装置あるいはリソソームへの輸送活性化が治療ターゲットになり得ることが証明でき、新たな治療戦略の基盤が構築できた。
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今後の研究の推進方策 |
1)の研究では、本成果を発展させることで細胞老化の詳細な分子機構の解明につなげるとともに、癌ではOASISが発現低下しており癌化への関与という視点でも研究を展開していく。2)の研究テーマに関しては、得られた成果を特許につなげるとともに、臨床応用していくために候補化合物の作用機序や薬効評価につなげていく。
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