研究課題
細胞間コミュニケーションにとって極めて重要な分泌タンパク質や膜タンパク質が高次構造を形成する小胞体に、構造異常タンパク質が蓄積すると2つのメカニズムが駆動し、対処する。申請者の長年に亘る研究から、構造異常タンパク質の量をモニターして対応するのが小胞体ストレス応答であり、構造異常タンパク質の質をモニターして対応するのが小胞体関連分解であると考えている。後者の場合、細胞にとって極めて有害な構造異常タンパク質が出現すると、通常の手順を踏まずに強制分解する。本研究の目的は、小胞体におけるタンパク質の品質管理において最も難解で、解明の遅れている構造異常タンパク質の認識機構を明らかにすることである。小胞体ストレス応答が構造異常タンパク質を感知する仕組みについてー小胞体ストレスセンサーIRE1αとPERKの小胞体ストレス感知機構が同じかどうか明らかにするために、2つのキメラタンパク質(P-P-I、P-I-I)を作製済みであった。本年度に、IRE1α、P-P-I、P-I-IをIRE1αのプロモーターに繋ぎ、IRE1αIRE1β二重破壊メダカに導入するためのコンストラクトを完成させ、トランスジェニックメダカ作出を開始した。小胞体関連分解が構造異常タンパク質を感知する仕組みについてーこれまでの解析から、小胞体の中に、タンパク質の構造異常のシビアさをモニターしているProtein Xが存在していることが示唆されていた。既発表論文を精読する内にこのProtein Xの正体に気づき、ヒト大腸がん由来細胞HCT116を用いてその遺伝子破壊細胞を作出した。この細胞ではシビアな構造異常非糖タンパク質の分解が期待通り遅れたことから、さらに詰めの実験を行っている。
2: おおむね順調に進展している
小胞体ストレスは、ツニカマイシンやタプシガルジン等の薬物によって容易に惹起されるため、多くの研究者は薬物によって多数のタンパク質を強力に変性させて解析を行っているが、申請者はそれでは小胞体ストレス応答の真の姿を理解することはできないと考えて、独自にメダカを使って生理的に発生する小胞体ストレスを解析してきた。その結果、場面・局面によって構造異常となるタンパク質が異なり、その打開に向けて最適のセンサーが活性化されることを見出した。申請時にはJCB, revise中としていたが、JCBに発表した。IRE1αIRE1β二重破壊メダカは、孵化前に3つの表現型を示し、孵化後、死に至る。すなわち、肝臓(肝臓マーカーFabp10aの発現量が67%低下)、孵化腺(孵化酵素LCEの発現量が60%低下)、脊索(尾が24%短い)それぞれの発達が不十分なためである。申請時には投稿準備中としていたが、eLifeに発表した。小胞体関連分解において、基質は小胞体膜貫通タンパク質複合体を通って小胞体から細胞質へ逆行輸送される。この複合体のコンポーネントはDerlin1/2/3やHerp1/2のようにファミリーを形成していることが多く、役割分担が不明であった。そこで例外的に相同性組換え効率が高いニワトリDT40細胞を用いて遺伝子破壊を行った。その結果、Derlin2/3とHerp1/2はそれぞれ機能的に重複しており、SEL1Lを必要とする小胞体関連分解基質はDerlin2もしくはDerlin3およびHerp1もしくはHerp2を必要とするという新規則を見出してCSFに発表した。
IRE1αIRE1β二重破壊メダカは、孵化した後に致死となる。これが本研究目的に理想的に合致し、このメダカの胚性期では3つの異なる組織の発達が不十分となる。これらの組織(肝臓、脊索、孵化腺)では異なるタンパク質が多量に合成分泌されており、この表現型がIRE1αあるいはIRE1αとPERKのキメラタンパク質によってレスキューされるかどうかを調べ、生理的発生する小胞体ストレスの感知機構に関する結論、共通なのか異なるのか、を初めて得る。作出したProtein X破壊ヒトHCT116細胞に様々な小胞体関連分解基質を発現させて分解速度を測定し、シビアに構造異常となったタンパク質を糖鎖非依存的に分解する機構が失われているかどうか明らかにする。また、Protein Xのドメイン構造を調べ、構造異常タンパク質の認識に関わっていると考えられるアミノ酸群を徹底的にアラニンスキャンし、Protein X破壊細胞にもどし、強制分解をできるかどうか調べ、構造異常を認識するメカニズムに切り込む。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 6件) 備考 (3件)
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