前年度までに染色体上に約150コピー存在するリボソームRNA遺伝子のコピー数をカウントする因子として、リボソームRNA遺伝子の転写の活性化複合体UAF(Upstream Activating Factor)を同定した。さらにリボソームRNA遺伝子の低コピー株で、UAFがSIR2のプロモーターに結合していること、またUAFにマイクロコッカスのヌクレアーゼドメインを融合したタンパク質を細胞内で発現させ、切断断片の長さから結合領域を同定したところ、UAFはSIR2のORFから-200bpのTATA box上流付近に集中していることがわかった。加えてSIR2プロモーターの欠損解析を行ったところ、-200bp付近の20bpの領域を削ったSIR2プロモーターでは、リボソームRNA遺伝子低コピー株でもSIR2の転写を抑制しないことが判明した。興味深いことにその20bpの配列 (rDNA copy number counting配列、RDCCと命名)は、SIR2以外の遺伝子のプロモーターに挿入した場合でも、リボソームRNA遺伝子低コピー株中でのみ、転写抑制効果を示すことが判明した。 今年度は、この同定したRDCC が実際にコピー数の回復に関わるかどうかを、パルスフィールド電気泳動によりリボソームRNA遺伝子を持つ染色体の長さの伸長速度を指標に調べた。その結果、リボソームRNA遺伝子低コピー株でRDCC配列のみを削ったSIR2プロモーターを持つ細胞では、コントロールの完全長SIR2プロモーターを持つ株に比べて、有意にコピー数の回復速度が低下していることが判明した。以上の結果からRDCCは、リボソームRNA遺伝子のコピー数の低下時にそこから解離したUAFが特異的に結合する配列であり、その結合によりSIR2 の発現が抑制され、リボソームRNA遺伝子の増幅誘導に関わる非コードプロモーターE-proが活性し、コピー数が増幅することが判明した。
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