研究課題/領域番号 |
17H01445
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
田村 浩一郎 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (00254144)
|
研究分担者 |
和多田 正義 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 教授 (00210881)
野澤 昌文 首都大学東京, 理学研究科, 助教 (50623534)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 低温耐性 / 低温順化 / 人為選択 / 実験進化 / 既存変異 / 柔らかい選択的一掃 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
台湾から日本に急速に分布を広げたアカショウジョウバエは、低温順化による低温耐性の向上がより顕著になっているが、低温順化に伴って発現量が変化する遺伝子は、種間、種内系統間でかなり異なることが先行研究で分かった。そこで本研究では、本種の急進的な温度適応は、(1)特定の限られた遺伝子の発現の変化によるものか、それとも多様な遺伝子が原因となりえるのか、(2)近年、急進的適応進化のモデルとして注目される“soft selective sweep from standing genetic variation”にあてはまるのか、の二つの疑問を解明することを目的とする。そのため、台湾と日本の集団の間でゲノム配列データを比較し、台湾から日本への分布拡大に伴うアレル頻度の変化を明らかにするとともに、研究室内の実験集団で低温耐性の人為選択を行い、ゲノムの変化を調べる“Evolve & Resequence”によって、その再現性を検証する。 本年度は、年度末までに実験集団を用いた低温耐性による人為選択実験が42世代まで完了し、31世代目の人為選択集団、対照実験集団それぞれ5集団ずつ合計10集団および人為選択実験開始前(0世代目)の集団について、100G塩基対スケールのゲノム配列データをPool-seq法によって得た。そして、前年度に得た11世代目、21世代目に加えて、配列データの解析を行った。その結果、対照実験集団では、5集団それぞれにおいて独自のアレル頻度変化の経時的蓄積が観察され、遺伝的浮動がその主要因であると考えられるが、人為選択集団では、5集団で共通したアレル頻度変化が特に対照実験集団に比べて有意に低温耐性が高くなった21、31世代目の集団で観察され、5集団に共通する人為選択の効果が認められた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究室内の実験集団を用いた人為選択実験に関しては、予定通り人為選択集団、対照実験集団それぞれ5集団とも順調に世代交代を続けることができ、計画通り31世代目の集団についてPool-seqによるゲノム配列データの獲得に成功し、41世代目の集団について配列決定用の試料の準備が完了した。 また、得られた31世代目のゲノム配列データを前年度までに得られた11世代目、21世代目のデータに加えて配列データ解析を行い、人為選択集団における遺伝的構成の変化を明らかにすることができた。 一方、2019年集団のサンプル採集は、猛暑と台風の影響で成功しなかった。しかし、2020年度に再挑戦するとともに、過去に採集済みの系統を用いる対案を講じることはできた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究室内の実験集団を用いた人為選択実験については、2019年度末に42世代目に達し、年度内に31世代目のゲノム配列をPool-seqによって集団単位で決定した。2020年度は、人為選択実験を計画通り進め、最終的に51世代までは世代交代毎に親となる成虫で低温選択を続け、2019年度末に準備した41世代目のサンプルと2020年度後期に得られる予定の51世代目のサンプルを用いてPool-seq法によるゲノム配列データ解析を行う予定である。その結果を0、11、21、31世代目のデータと合わせ、人為選択によるアレル頻度の変化を明らかにし、低温耐性向上の原因となった遺伝機構を明らかにする。また、低温に対する人為選択がどのように生理機能に影響したりエピジェネティックな変化を引き起こしたりするのか、表現型レベルでの対照実験集団との比較解析も行い、低温耐性獲得の進化メカニズムを明らかにする。 一方、日本集団の遺伝的構成の経時的変化を調べるためのショウジョウバエ採集については、主に天候など自然環境条件の影響によって2019年度までの3年間で2018年度のみ十分な数の系統確立に至った。2020年度に成功すれば2年間の間の変化を調べることができるが、上手くいかなかった場合、採集地点などの条件は異なるものの、2011年度に日本国内で採集、維持している系統を用いて経時変化の検証を行う。これら自然集団での遺伝的構成の経時変化と人為選択集団での遺伝的構成の経時変化を比較することにより、他の環境要因による影響を差し引き低温条件のみが遺伝的構成に及ぼす影響を明らかにする。
|