研究課題
細胞内共生による葉緑体の成立は、真核細胞による光合成細胞の捕食、一時的保持(盗葉緑体;任意共生)、恒久的保持(絶対共生)の順に進行したと考えられている。共生体光合成は宿主細胞の成長増殖に必要である一方、高濃度の活性酸素種を発生し宿主にダメージを与える。従って細胞内共生成立には、宿主真核細胞による共生体光合成毒性への対処機構の発達が必須であったと推定される。本研究では、共生の各段階にある生物を用い、宿主細胞が共生体光合成による酸化ストレスにどの様に対処しながら増殖するのか、宿主細胞が、共生体への無機塩類供給とそれに伴う光合成活性調節機構をどの様な方法でどの程度行えるようになっているかを明らかにする。これらの結果を統合し、光合成毒性への対処、宿主による光合成活性制御という視点から、自然界における真核細胞の光合成戦略の多様性と、細胞内共生の進化機構を解明することを目的とする。本年度は、藻食アメーバ(我々が湿地より単離したNaegleria sp.)と藻類餌の無菌無機培地共培養系、盗葉緑体性渦鞭毛虫(Nusuttodinium poecilochrom)と藻類餌の無菌無機培地共培養系、ミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria)の無菌無機培養系を確立し、至適光強度を決定することが出来た。さらに、今後のRNA-seqによる明暗条件でのトランスクリプトーム比較用のリファレンスとなる、餌・共生体と宿主を区別したmRNAコンテティグ配列を取得することが出来た。これらに加えて、光合成性と従属栄養性の切り替えが可能な真核藻類(Chlamydomonas eustigma)のゲノム配列を決定した。
2: おおむね順調に進展している
藻類捕食、盗葉緑体(一時的な共生)、任意共生関係に関して、それぞれの無菌無機培養系を滞りなく確立することに成功した。藻類捕食、盗葉緑体に関しては、藻類餌との二員培養のための捕食者と餌の最適比率も決定することが出来た。今後の解析の基盤となる各餌・共生体及び各宿主のmRNAシーケンス及び光合成性・従属栄養性が可変な真核藻類のゲノム情報が得られ、計画通りに研究が進んだ。
藻類捕食、盗葉緑体(一時的な共生)、任意共生関係に関して、これまでに確立した培養系を用いて、暗所と明所(光合成阻害剤有りと無し)での餌・共生体及び宿主のトランスクリプトームを比較し、宿主の光合成酸化ストレス軽減法及び対処法に関する知見を得る。これと並行して、培地中の無機窒素源の種類と濃度を変化させ、各捕食・共生関係における窒素源のやり取りと光合成の関係を解析する。
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Proc. Natl. Acad. Sci. USA.
巻: 114 ページ: E8304-E8313
10.1073/pnas.1707072114