研究課題/領域番号 |
17H01447
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大熊 盛也 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソースセンター, 室長 (10270597)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 共生 / 微生物群集 / ゲノム解析 / シングルセル解析 |
研究実績の概要 |
複雑ではあるが安定して再現性良く同一の微生物群集が得られるシロアリ腸内の共生微生物群集において、シングルセルゲノム解析によって網羅的に群集を構成する主要な微生物種の機能解明をめざしている。
今年度は、腸内のセルロース分解性の原生生物細胞に共生し、腸内微生物群集の優占種でもある細菌種を中心に解析を進めた。細胞内共生としてTreponema属細菌1種とEndomicrobium属細菌2種、細胞表層に付着共生するTreponema属細菌3種、Bacteroidales目細菌1種のシングルセルゲノム解読を行って、順次、配列のアセンブル、コード領域の推測と機能アノテーションに進めた。複数のシングルセルからのサンプルを解析することで、概ね7割以上のゲノム完全率が得られたが、一部完全率が低いものがあった。原生生物細胞との共生を問わない網羅的な腸内細菌種のシングルセルでの解析にも着手した。また、以前に16S rRNA遺伝子配列で検出されていたが未培養であった乳酸菌種の分離培養に成功し、新種Lactococcus reticulitermitisとして提唱して、ゲノム配列情報も決定した。
原生生物種については、腸内に3種のみが生息すると報告されているイエシロアリにおいて、マイクロマニピュレーターを用いて単離した3種の原生生物のそれぞれ複数のシングルセルからトランスクリプトーム解析を行い、機能アノテーションに進めた。ゲノムカバー率は6割程度までであったが、数多くの分解酵素遺伝子群の配列等が得られた。1種の原生生物については、複数のシングルセルサンプルの解析から、2系統に分かれる可能性が示唆され、このシロアリ腸内には4種の原生生物が生息していると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は概ね計画どおりに進捗している。ねらった原生生物種の細胞を分取または濃縮することで、効率良く目的の細胞共生細菌のシングルセルゲノム解析が可能となった。これにより複数のシングルセルサンプルを容易に得ることができ、複数サンプルのゲノム解析を行うことで、目標としていた程度のゲノム完全率を達成することが可能となった。一部複数サンプルを解析しているにもかかわらず、十分な完全率を得ることができない細菌種があったが、シングルセルからの解析であるがゆえに予想されたことであり、今後、計画していた全ゲノム増幅過程のバイアスを軽減する対策を講じることで完全率の改善をはかりたい。網羅的な細菌種のシングルセルサンプルの取得にも着手できたことも計画どおりの進捗である。
原生生物のシングルセルトランスクリプトーム解析も概ね順調に進捗している。得られた転写遺伝子情報のゲノムカバー率は決して高い値ではないが、シングルセルからの解析であることを考慮した予想の範囲内であった。比較的サイズが小さい原生生物種では、シングルセルでのトランスクリプトーム解析が困難な場合が多く、今後技術的な改善が必要と考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況は概ね順調であり、研究の推進方策に大きな変更はない。引き続き、網羅的に細菌種のシングルセル解析を進める。また、解読ゲノム情報の機能解析を順次進めて、個々の細菌種の腸内微生物群集における役割分担等を明らかにして群集の複雑性がもたらされ維持される機構の解明をめざす。原生生物細胞に共生する細菌については、複数種のシロアリや原生生物種間で、共通種または近縁種が共生するものを比較解析することにより、推定した原生生物―共生細菌間の共生機構が普遍性の検討と進化的考察をする課題も推進したい。
原生生物のシングルセルトランスクリプトーム解析も、得られた転写発現遺伝子情報を精査して、原生生物間の機能の差異を明らかにする。細胞共生細菌のゲノム情報を解析した宿主原生生物種については、可能なかぎりシングルセルトランスクリプトーム解析で機能を明らかにして、共生機構の理解を進める。小型の原生生物種については、シングルセルでの解析に拘泥することなく、同一種のみを例えば100細胞以上集めての解析を行うことで機能解明をする方策も講じる。
|
備考 |
所属機関の広報誌、2018年4月号 6-9ページに研究成果の紹介を掲載
|