研究課題/領域番号 |
17H01453
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
綿貫 茂喜 九州大学, 芸術工学研究院, 教授 (00158677)
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研究分担者 |
太田 博樹 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40401228)
西村 貴孝 九州大学, 芸術工学研究院, 講師 (80713148)
中山 一大 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (90433581)
勝村 啓史 北里大学, 医学部, 准教授 (10649544)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生理的多型 / 遺伝子多型 / 環境適応能 / 免疫機能 |
研究実績の概要 |
代表者らは、日本人の寒冷曝露時の熱産生と遺伝要因との関連を検討し、脱共役タンパク質(UCP1)遺伝子多型が熱産生に関与すること、産熱型アレルの頻度が高緯度地域(寒冷地)で多いこと、UCP1遺伝子が抗ウイルス作用を持つ遺伝子と連鎖することを示してきた。これらは人類が寒冷環境への適応を有利に進めるために、産熱機能を中心とした寒冷適応能と免疫機能が協働してきたことを示唆した。加えて、免疫系には非特異的な自然免疫と特異的な獲得(適応)免疫等があり、その進化はヒトの環境適応と深く関連してきたと推測される。そこで本研究は寒冷適応能と免疫機能との共進化が果たした役割を、現代人の体温調節等の生理反応と種々の免疫反応、及びゲノム解析から明らかにすることを目的とした。低酸素状態と炎症反応は分子レベル、細胞レベル、そして臨床レベルで関連があることが知られており、組織傷害および組織修復に関与する免疫細胞と内皮細胞を共に活性化する。しかしながら、安静時の健常者における中程度の低圧低酸素曝露によってどのような免疫反応の変化が生じるのかについては十分に明らかでない。したがって今年度は低圧低酸素時の血液成分と免疫系指標に着目して曝露前後の変化を検討した。若年男性を3500m相当の低圧低酸素環境に75分間曝露した。結果として、曝露後半で最もSpO2は低下し、心拍数は高くなった。血中成分においては、白血球数は有意に増加し、アルドステロンとコルチゾールが減少した(p < 0.01)。血中サイトカインはIL-6とIL-8が有意に上昇した(p < 0.01)。ゲノムワイドDNAメチル化パターンの解析から、曝露後の顆粒球の増加が示唆された。これらの結果から、短期間の中等度の低酸素曝露は、何らかの免疫応答を誘導することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り生理実験を実施し、採取した検体のDNA、DNAメチル化、RNAについて分析を進めている。 これまでの成果について、学会発表と論文投稿準備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度秋期に行った反復的な標高3500m相当の低圧低酸素曝露実験により、低圧曝露によって血中酸素飽和度や心拍数のみならず、免疫機能に関する白血球数及びコルチゾール等の変化に再現性があることが示唆された。この実験におけるDNAメチル化、RNA発現の解析が6~7月に完了する予定である。この結果を踏まえて、生理反応の個人差や反復的な曝露前後でのサイトカインの反応がとどのように関連するかを分析する。以上の結果を取りまとめ論文投稿する。9月頃に若年男性を対象に、寒冷環境下における生理反応(直腸温、皮膚温、酸素摂取量、筋電図等)及び、免疫反応(唾液中サイトカイン、グロブリン等)を測定する。28℃の一定温度条件下において安静時の生理値を測定した後、人工気候室のプログラム運転によって部屋の温度を10℃程度まで緩やかに低下させ、非震え産熱と震え産熱の閾値を捉える。実験前後で採血をし、各種免疫機能のマーカーの測定やRNA・DNA分析に使用する。寒冷適応及び免疫機能と関連する可能性が高い遺伝子を選定し、諸生理値との関連解析を行う。さらにジャポニカアレイを用いたゲノムワイドな関連解析、メチル化解析を行う。これらにより寒冷適応能や免疫機能と関与する遺伝子の同定を目指し、生理値との関連、さらに季節差(夏季の暑熱順化)の影響を探る。以上をとりまとめ、国際誌に論文を投稿する。これらに並行して東アジア集団の他のアジア地域を対象に本研究と関連する遺伝子多型を調査し、遺伝子多型の効果の普遍性や地域間差異を検討する。以上の結果を総括し、得られた結果からヒトの適応史における寒冷適応と免疫機能の共進化が果たした役割を明らかにする。
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