研究課題/領域番号 |
17H01462
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
土佐 幸雄 神戸大学, 農学研究科, 教授 (20172158)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Pyricularia oryzae / wheat blast |
研究実績の概要 |
(1)強病原化機構の解析 我々はすでに、コムギのエンバクいもち病菌ならびにライグラスいもち病菌に対する抵抗性遺伝子としてRwt7を見出した。本遺伝子の穂における効果を調べたところ、穂では発現しないことが判明した。それにも関わらず、世界中の70%以上の在来コムギ系統はこの遺伝子を保持していた。さらに、コムギいもち病菌はこれに対する非病原力遺伝子PWT7を欠失していた。このことから、PWT7の欠失は、コムギへの完全適応-fine tuning- の一要因ではないかと考えた。マッピングの結果、本遺伝子は7A染色体の末端に座乗することが判明した。 さらに、PWT2のクローニングに成功した、PWT2は、もともとイネ菌等のコムギに対する非病原力遺伝子と考えていたものであるが、クローニングの結果、そうではなく、コムギ菌の病原力遺伝子であることが判明した。コムギ菌、アワ菌、シコクビエ菌の本遺伝子を破壊すると、それぞれの宿主であるコムギ、アワ、シコクビエに対する病原性、ならびに共通宿主であるオオムギに対する病原性が低下した。病原性の低下は、病斑数の減少となって表れた。一方、本遺伝子に機能欠損のあるイネ菌に、本遺伝子を導入すると、オオムギに対する病原性が向上した。以上のように、病原性の強化にかかわる遺伝子を1つクローニングすることができた。 (2)新規抵抗性遺伝子のクローニング 我々はすでに、エチオピア産のオオムギ数系統ならびにイラン産のオオムギ1系統がコムギいもち病菌に強度の抵抗性を示すことを見出した。分離分析の結果、エチオピア産の系統の抵抗性はすべてRmo2座に座乗する1つの抵抗性遺伝子に支配されていることが判明した。一方、イラン産の系統は、2つの遺伝子を持っていた。1遺伝子はRmo2座の遺伝子、他の遺伝子は新規抵抗性遺伝子であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強病原化機構の解析においては、(1)コムギ菌の fine-tuning に関与したと思われる遺伝子を1つ、(2)Pyricularia oryzaeのムギ類を中心とする様々な植物に対する病原性に関与する遺伝子を1つ、クローニングすることに成功した。強病原化の過程には、様々な遺伝子が関与していると考えられ、いま、そのうちのいくつかをやっと見出したところであるが、このような同定・クローニングを進めていけば、P. oryzaeの病原性強化の全体像が見えてくるのではないか、という感触を得た。 一方、抵抗性遺伝子の同定においても、2つの遺伝子を見出した。一つは、既知の遺伝子座Rmo2に座乗するものであるが、そのコムギいもち病菌に対する抵抗性は、すでに知られているRmo2.dと比べて格段に強い。クローニングしてコムギに導入すれば、コムギの抵抗性育種において極めて有用であると考えられる。また、もう一つの遺伝子(イラン産系統に見出されたもの)は、新規遺伝子と考えられる。そのマッピングのための材料は、現在圃場で育成中であるが、6月には収穫し、9月にはマッピングに取り掛かる予定である。以上のことから、おおむね順調に進展していると結論した。
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今後の研究の推進方策 |
PWT7については、その機能欠損が、コムギ菌分化過程のどの時点で、どのような分子メカニズムで起こったのかを解明する。それにより、コムギ菌の祖先がコムギに完全適応していく過程の一端を明らかにする。 PWT2については、これが、どのような機構で病原性の強化に関与しているのかを、細胞レベル、分子レベルで明らかにする。 コムギいもち病抵抗性遺伝子については、エチオピア産品種の強度抵抗性が、真にRmo2座の遺伝子によるのかを、大きな分離集団を用いて精査する。また、Rmo2をクローニングし、分子レベルのどのような多型が、この強度抵抗性に関与しているのかを明らかにする。Rmo2の候補遺伝子は、fine mappingによりほぼ特定しており、これをサイレンシングした形質転換体が感受性になることも確認している。現在、Gain of Function でこれを確認するための形質転換を行っているところである。イラン産の抵抗性系統については、2つ目の遺伝子の単独検出を行うとともに、そのマッピングを試みる。
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