本年度は、いもち病菌の病原性の強化に関わるエフェクター1つとそれに対抗する方法を見出した。我々はすでに、コムギのコムギいもち病抵抗性遺伝子として、Rmg8を同定していた。また、世界各地から収集された普通系コムギ在来品種約520系統をスクリーニングし、Rmg8保有系統を約20系統見出していた。これらRmg8保有系統は、コムギいもち病菌Br48に抵抗性である。これらに、Br48+PWT4(Br48にエンバク菌のコムギに対する非病原力遺伝子PWT4を導入した形質転換体)を接種したところ、感受性となる系統をいくつか見いだした。このことから、PWT4は、Rmg8の抵抗性を抑制するエフェクター機能を持っていると考えた。興味深いことに、抵抗性系統のすべてがこの抑制を受けるわけではなく、Br48+PWT4に抵抗性を示すRmg8保有系統も存在した。この差は何によるのかを検討したところ、PWT4による抑制を受ける系統はRwt4(コムギのエンバクいもち病菌に対する抵抗性遺伝子)を持っていないが、抑制を受けない系統はRwt4を持っていることが判明した。すなわち、抑制を受けない系統は、Rmg8を抑制しようとするエフェクターPWT4をRwt4により積極的に認識し、抵抗性を駆動していた。 一方、PWT4のいもち病菌集団における分布を調べたところ、PWT4は別種P. pennisetigenaからエンバク菌(P. oryzae)へ水平移動してきたことが示唆された。PWT4は種を超えて水平移動するのであるから、P. oryzae種内の移動はより容易に起こると考えられる。もし、コムギ菌がPWT4を獲得すれば、Rmg8保有コムギ品種のブレイクダウンを起こすことが予想される。以上の考察から、「Rmg8をコムギいもち病抵抗性育種に用いる際は、Rwt4を合わせて導入する必要がある。」と結論した。
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