研究課題/領域番号 |
17H01472
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
松田 一彦 近畿大学, 農学部, 教授 (00199796)
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研究分担者 |
丹羽 隆介 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (60507945)
作田 庄平 帝京大学, 理工学部, 教授 (80192087)
加藤 直樹 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (90442946)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 植物ケミカルシグナル / 昆虫活性物質 / 糸状菌 / 放線菌 / 二次代謝 / 生合成 / 昆虫神経活性 / 昆虫変態活性 |
研究実績の概要 |
2018年度の研究によって、糸状菌Penicillium simplicissimum AK-40株によるオカラミン生合成を促進するダイズの化学シグナルの活評価系を改良した。すなわち、オカラミンの生合成を指標とする方法に加えて、糸状菌の増殖変化も併せて観測することにより評価系の速度と感度を改善すると同時に、ダイズからの化学シグナルの抽出条件を精密化することにより、目的物資を著量含む一画分を獲得した。本画分は、P. simplicissimum AK-40株のみならず他の糸状菌による昆虫制御活性物質の生産も促進することを確認した。さらに、本シグナルを受容したP. simplicissimum AK-40株で発現が誘導される遺伝子群をRNA-seqで絞り込んだ。 P. simplicissimum AK-40株のオカラミンの生合成遺伝子クラスターを解明し、カイコガ抑制性グルタミン酸受容体 (GluCl)の活性化を指標として構造活性相関を検討した結果、3-メトキシ基とアゾシン環の2つの不飽和結合がオカラミンの活性発現に重要であることを解明した。さらに、P. simplicissimum AK-40株以外の糸状菌の昆虫活性物質生合成遺伝子クラスターの解析を進めると同時に、オカラミンとは別の化合物の昆虫内の標的候補タンパク質を絞り込んだ。一方、ショウジョウバエで脱皮・変態ホルモンとしてはたらくエクダイソンの生合成酵素グルタチオン S-トランスフェラーゼに対して阻害活性をもつ糸状菌代謝物の生合成と構造活性相関について検討した。一方、植物とキチナーゼ阻害剤アロサミジンを生産する放線菌との関係についても検討し、本化合物が植物の根の成長のみならず、土壌の菌叢にも影響することを示唆する知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究によって、糸状菌Penicillium simplicissimum AK-40株による殺虫性物質オカラミンの生合成を促進するダイズの化学シグナルを精製するための評価システムを確立し、化学シグナルを著量含む画分を得ることに成功した。また、P. simplicissimum AK-40株のオカラミン生合成遺伝子クラスターを同定して生合成経路の全貌を解明し、標的抑制性グルタミン酸受容体に対する活性発現に関わる重要な構造因子として3-メトキシ基とアゾシン環の不飽和結合がはたらくことを明らかにした。さらに、P. simplicissimum AK-40株とは別の糸状菌がつくる殺虫活性物質の標的候補が抑制性神経伝達に関わるリガンド作動性イオンチャネルであることを究明するとともに、糸状菌産物の中から神経系とは根本的に別の作用点である昆虫の脱皮・変態過程に作用する微生物産物を発見し、生合成経路の一部を解明した。一方、放線菌の産物については、キチナーゼ阻害物質アロサミジンが植物成長調節活性に加えて、土壌の菌叢も変化させる活性をもつことを示唆する知見を得た。このように、「微生物を介した植物の間接誘導防衛機構の解明にもとづく次世代昆虫制御物質の創出」に関する研究はほぼ順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、まず、ダイズが分泌するオカラミン生合成促進物質の単離と構造解明に挑む。これまでに、ダイズを一定時間極性溶媒で抽出し、これをカラムクロマトグラフィーで精製することにより、とりわけ高いオカラミン生合成促進活性を示す画分を得た。本活性画分を分取高速液体クロマトグラフィーで高度に精製することにより目的物質を単離し、その構造を質量分析やNMR等の分析機器を用いて解析することにより推定する。このプロセスで評価系としてオカラミン生合成の活性化のみならず、細胞増殖や転写因子遺伝子発現の変化も採用する。一方、P. simplicissimum AK-40株以外の糸状菌がつくる昆虫活性物質の標的は、本化合物を結合させた樹脂に特異的に結合するカイコガあるいはショウジョウバエのタンパク質を質量分析装置で解析することで同定する。また、標的候補タンパク質をコードする遺伝子を破壊・改変したショウジョウバエを作出し、本化合物に対する感受性が変動することも確認する。 ショウジョウバエのグルタチオン S-トランスフェラーゼ酵素Nopperaboは昆虫の脱皮・変態ホルモンとして機能するエクダイソンの生合成に関与する。これまでの研究で、デカリン骨格をもつ糸状菌産物が比較的低濃度でNopperaboを阻害することを発見している。そこで、それらの糸状菌産物のNopperabo阻害活性に関わる構造因子を解析すると同時に、虫体レベルでの脱皮変態阻害活性とNopperabo阻害活性との相関を証明する。 放線菌が生合成するキチナーゼ阻害物質アロサミジンは植物の根の成長と土壌の菌叢の両方に影響することが示唆された。本成果の発表に向けて、活性指標の精密化とデータの定量的解析を進める。
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