研究課題/領域番号 |
17H01482
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
北岡 卓也 九州大学, 農学研究院, 教授 (90304766)
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研究分担者 |
一瀬 博文 九州大学, 農学研究院, 准教授 (00432948)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖鎖 / ナノファイバー / バイオインターフェース / 細胞・組織 / 細胞培養 / シグナル伝達 / バイオマテリアル / ナノマテリアル |
研究実績の概要 |
樹木ナノセルロースの界面構造を活かして細胞外マトリックス(ECM)を機能模倣する新発想の林産系バイオマテリアルの研究領域を開拓すべく、初年度はナノセルロース結晶界面をカルボキシ化した基板を用いて種々の細胞培養を試みた。異なるTEMPO酸化条件によりカルボキシ基密度を制御したナノセルロース薄膜を調製し、①マウス由来線維芽細胞(NIH/3T3)および②自然免疫受容体発現型ヒト胎児腎細胞(TLR2発現型HEK293)の培養に供したところ、以下の成果を得た。 ① NIH/3T3細胞を様々なカルボキシ基密度(0-1.6 mmol/g)のナノセルロース基板上で培養したところ、低密度および高密度のカルボキシ含有量ではスフェロイド(細胞塊)を形成したが、中程度のカルボキシ基密度では細胞が良好に接着・伸展するユニークな挙動の違いが観察された。細胞数の経時変化から、最適なカルボキシ基密度のナノセルロースでは細胞の初期接着ではなく細胞増殖に関与する可能性が示唆された。また、再生医療への応用を踏まえて無血清培地での培養を試みたところ、表面カルボキシ化による細胞増殖やスフェロイド形成は見られなかったが、今後は細胞増殖因子の詳細な解析により、細胞接着誘導機構の解明を目指す。 ② TLR2発現型HEK293細胞では、全てのカルボキシ基密度でスフェロイドを形成したが、カルボキシ基量依存的にスフェロイドのサイズの変化が確認された。さらに、TLR2による炎症シグナル伝達もカルボキシ基量に応じて変化したことから、表面カルボキシ化ナノセルロースが細胞表面のレセプターに直接作用している可能性が示唆された。 今後は、各種培養細胞の遺伝子・タンパク質レベルでの発現挙動解析など、生物機能への影響を詳細に探究することで、樹木ナノセルロースを使って初めて実現可能な細胞培養基材の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ナノセルロースの「しなやかな硬さを持つナノファイバー形状(物理的特性)」と「制御可能な糖鎖界面(化学的特性)」の両面からECM機能を模倣する独自戦略で研究を行っており、初年度は糖鎖界面をカルボキシ化することで、ナノセルロースそのものでは発現しない細胞接着挙動や細胞表面タンパク質との相互作用を見出した。また、細胞を単層で培養する2D培養と比較して、生体内により近い環境となるスフェロイドを用いた3D培養についても、糖鎖界面のカルボキシ基量によってスフェロイドのサイズの調節が可能であった。細胞増殖や分化に影響を与える重要なファクターである培養基板の硬さの制御や評価は実施できなかったが、新たにセルロースの結晶構造の違いによる細胞接着挙動の変化についてのデータが得られつつある。今後、これらの培養細胞の遺伝子やタンパク質の発現挙動解析などを進めることで、界面ナノ構造と細胞の増殖・形態変化の相関性について詳細に研究する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究のコンセプトである「樹木ナノセルロースの界面構造を介したECMの機能模倣」の実現に向け、来年度は細胞とECMとの直接的な相互作用によって生じる細胞増殖・移動・分化に関連する遺伝子やタンパク質の発現挙動を詳細に解析するとともに、ナノセルロース基板側の物理特性の制御と解析を進めることで、初年度に得られた知見の機構検討を進める。ナノセルロース基材の開発も引き続き実施し、カルボキシ基以外の官能基による糖鎖界面修飾や、硬さの異なるナノセルロースの調製を行い、細胞接着挙動を確認していく。また、神経幹細胞の未分化維持にはニューロスフェアと呼ばれるスフェロイド形態での培養が必須であり、スフェロイドの大きさにより幹細胞の分化能が変わることが知られている。そこで、本年度の成果に基づき、ナノセルロース結晶界面のカルボキシ化の程度の違いが幹細胞のスフェロイド形成やサイズに関与する機構を探究し、各種幹細胞の培養にも取り組むことで本研究をさらに進展させる。
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