研究課題
今年度はまず、南東部ベーリング海陸棚域にておしょろ丸が過去に採集した動物プランクトン試料のうち、気候レジームシフトの影響を見るのにふさわしい試料の選定を行った。当海域では1977/78年と1989/90年に大きな気候レジームシフトがあったことが知られている。この前後で、調査海域が同一で、採集日も同様な連続する2年ずつの試料セットを抽出した。その結果、1968, 69年、1982, 83年、1995, 96年の各年に西経165-166度線の北緯55-59度に位置する南北トランセクトにて採集された試料について、解析を行うこととした。画像解析用のZooSCANも2017年7月に導入され、さっそく解析を開始した。解析方法として、同機器について既に研究実績のある、ドイツのアルフレッドウェゲナー極地海洋研究所の方法を参考にした。画像データ取得とそれに基づく同定作業も順調に進み、リファレンス海域として別途設けた、グリーンランドカービング氷河末端における動物プランクトン試料(水平的に大きく分類群組成が異なる)の解析に基づき、学部4年生が卒業論文を発表した(2018年3月)。南東部ベーリング海陸棚域における試料解析は2019年3月に提出する大学院生の修士論文の研究テーマであるが、試料解析も順調に進んでいる。今年度は南東部ベーリング海陸棚域とその近傍海域の野外調査として、アラスカ大学シクリアック号の航海に乗船し、動物プランクトン試料を採集した。おしょろ丸の乗船実習や、海洋研究開発機構のみらいによる調査航海にても試料を採集した。成果発表として当海域とその関連海域の試料解析に基づく論文発表を査読つき国際誌に6編、査読無し英文誌に1編発表した。国内外学会における口頭およびポスター発表も積極的に行い、指導大学院生による優秀発表賞受賞もあった(第5回青田昌秋賞、2018年2月)。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究にて動物プランクトン試料の画像解析に導入するZooSCANはフランスのメーカーが開発した機器で、日本国内では過去に海洋研究開発機構や東京海洋大学に導入した実績があるが、いずれも機器の不具合や解析方法等の点で問題があり、明確な成果はつまびらかでは無かった。今回、本研究にてZooSCANを導入するにあたり、日本総代理店を通して、機器自体のバージョンアップが行われており、機器の不具合は無いことを確認した。また、既に同機器を用いた研究実績を持つ、ドイツのアルフレッドウェゲナー極地海洋研究所に、過去に長期滞在をしていたポスドク研究員により、同機器の測定および解析方法について指導を頂き、ZooSCANを用いた画像解析は、導入から1ヶ月を待たずして可能になった。この画像解析機器のスムーズな導入は、本研究の進捗を容易なものとした。さらに、テスト海域として、試料数は少ないが、水平的に大きく群集構造の異なる、グリーンランドカービング氷河末端にて採集された動物プランクトン試料を設けて、一時性プランクトンであるフジツボ幼生から、終生プランクトンのカイアシ類やヤムシ類までの画像解析データの蓄積を行った。この画像解析データの蓄積は、正確な種および分類群同定のために必要不可欠なものであり、今後同じ高緯度海域である南東部ベーリング海陸棚域の試料解析においても大いに役立つと考えられる。野外試料の採集も順調に進み、おしょろ丸の実習航海では、新規の画像解析として、大型クラゲ類を対照とした「フレームROV」を開発し、これによる映像データ解析により、従来のプランクトンネット採集では、体が脆弱なため、正確な定量評価が困難であったクラゲ類について微細分布を明らかにしつつある。また研究成果として、学会での優秀発表賞の受賞もあり、これらのことは本研究が当初の計画以上に進展していることを示している。
本研究の主要対象海域である、南東部ベーリング海陸棚域における動物プランクトンの試料解析を進めるのが重要である。特に、気候レジームシフトを挟むことにより、動物プランクトン群集の出現個体数、バイオマスおよび群集構造にどのような変化があったのかを明らかにすること、そしてその知見に基づき、将来的に海洋低次生態系がどのように変化するかを予測・提言することが本研究の目的である。この目的に沿って、南東部ベーリング海陸棚域における過去の動物プランクトン固定試料の解析を進めるのが今後の研究の推進方策で最も重要である。もちろん、本研究を進める上で、様々に得られた派生的な研究成果:グリーンランドカービング氷河末端における動物プランクトン群集構造解析、フレームROVによる、ゼラチン質動物プランクトン微細分布の定量評価などの成果発表も、今後行っていく必要がある。これらは本研究の目的を達成する上では、派生的な研究成果としての位置づけであるが、気候変動が海洋低次生態系に与える影響が懸念されている、本研究の対象海域において、今後明らかにすべき重要な研究課題、研究シーズであると考えられる。そのため、応分の配慮を持ってこれら副次的なトピックの解析や成果発表も適宜行っていく必要がある。また、本研究で対象海域としている南東部ベーリング海陸棚域は、スケトウダラやタラバガニを対象とする世界的な漁場であるが、同時にその大半が米国の領海内でもある。この米国の当海域を主要な研究対象としている各種研究機関:アラスカ大学フェアバンクス校、米国大気海洋局、米国ウッズホール海洋研究所などとの共同研究や連携も欠かせない。今後はこれら米国を中心とした研究機関との連携を密にして、本研究の関連成果に関係する国際シンポジウムを開催し、成果発表を行うのが将来に繋がる、今後の研究の推進方策である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 11件) 備考 (1件)
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