研究課題/領域番号 |
17H01483
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山口 篤 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (50344495)
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研究分担者 |
松野 孝平 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (90712159)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 動物プランクトン / 画像イメージング技術 / ネット目合い / 4連ノルパックネット / 開口比 / 濾過効率 / 採集効率 / ZooScan |
研究実績の概要 |
今年度は、南東部ベーリング海にて1955年から2013年の夏季に、北大水産学部附属練習船おしょろ丸が採集した動物プランクトン試料について、バイオマスの経年変化と気候変動の関係を明らかにした。試料は海底直上から目合い0.335 mmのNORPACネットの鉛直曳きにより採集された。試料の湿重量バイオマスを測定し、環境パラメーターの影響を解析した。用いた環境パラメータは水温、塩分、成層度指数、密度躍層の深さ、および気候指数としてのPDOとNPIである。水深により調査海域は中央陸棚域(水深50-100 m)と沖合陸棚域(水深100-200 m)の2つの領域に分けた。いずれの海域においても動物プランクトンバイオマスは、気候レジームシフトに関連する、両海域で共通する経年変化パターンを示した。調査期間内に、当海域には経年的な気候レジームシフトがあったことが知られ、その変化タイミングは、1976/77、1988/89、1998/99、および2005/06の4回であったことが報告されている。動物プランクトンバイオマスは両海域で共通して、最も暖かい期間(2000-2005年)において最低値を示した。一方、動物プランクトンバイオマスの最高値は寒冷期(2007-2013年)に観察された。環境パラメーターと動物プランクトンバイオマス間の相互作用は、共分散構造分析(SEM)によって分析した。 SEM分析により、動物プランクトンバイオマスは、中央陸棚域とと沖合陸棚域の両方で、躍層以浅の水温、冬季の海氷範囲および春季の海氷融解期の3パラメータが有意な関係を持っていた。海氷融解のタイミングが環境変数に及ぼす影響には海域差が観察され、海氷融解タイミングの影響は、沖合よりも中央陸棚域で強かった。中央陸棚域では環境変数が互いに密接に関連しており、SEMの適合度は沖合域より高かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度までかけて、ベーリング海における様々な動・植物プランクトン分類群の経年変動について、多くの新知見を発表している。今年度は以下の3課題を査読付き国際誌に投稿・発表した。すなわち1:底泥中に含まれる珪藻類休眠細胞の経年変化、2:米国アラスカ大所属の砕氷船、北大水産学部附属練習船、海洋研究開発機構の海洋地球研究船の3つの船舶により、同所的に採集された動物プランクトンネット採集試料を解析し、優占するカイアシ類の個体群構造の季節変化を明らかにした。また今年度論文発表のうち最も注目を集めたのは、3:水中ビデオカメラ撮影によるマクロ動物プランクトン(大型クラゲ類)の定量評価である。マクロ動物プランクトンは大型なため、動物プランクトン採集に通常用いられているプランクトンネットでは定量採集が困難であり、中でもゼラチン質動物プランクトン(クラゲ類やサルパ類)は、採集時に個体の破損が避けられないため、新しい定量法として、画像解析などの非破壊な定量法の開発が必要であるとされていた。本研究では、ワイヤーに吊した水中ビデオカメラを低速で降下、巻き上げを行うことにより、マクロサイズのゼラチン質動物プランクトン(クラゲ類)の定量鉛直分布評価法を確立し、その方法に基づく経年変化をベーリング海において明らかにした。クラゲ類の現存量は大きな経年変化を示し、海氷融解タイミングの経年差に起因する、餌生物バイオマスの経年差に関係することが明らかになった。本研究により確立したマクロサイズゼラチン質動物プランクトンの定量法は、今後該当分野の海洋生物研究におけるスタンダードになり得る手法で、様々な国の研究者より直接の問い合わせが寄せられている。今年度は更に、本研究課題に基づく成果発表が、査読あり論文12報、査読無し論文2報、学会発表12件を数え、この内容は当初の計画以上の進展といえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題により導入したプランクトン画像解析装置のZooScanは、従来あった光学式プランクトンカウンター(OPC)に比べて、画像データに基づく分類群同定が出来る点が有利な点である。ZooScanを使ってはベーリング海陸棚域における動物プランクトン採集試料を対象とする、浅海域の経年変動を明らかにすることが出来た。またそれ以外の応用として、南東部ベーリング海陸棚域との比較対象海域としての、北海道近海の噴火湾における動物プランクトン群集と生態効率の季節変化を明らかにすることが出来た。ただこれらの知見は、いずれも水深の浅い、海洋表層(水深200 m以浅)を対象とするものである。全球的な物質循環における海洋の役割は、体積的に地球上で最も大きな生物圏である深海(水深200 m以深)への炭素貯蔵が挙げられる。この深海への炭素輸送の上で重要な役割を果たすとされているのが、動・植物プランクトンを介した鉛直的な物質輸送の「生物ポンプ」である。最終年度の今年度は、最大水深3000 mまで層別に採集された動物プランクトン試料をZooScanにより解析し、生物ポンプにおいてプランクトンが果たす役割を定量・定性的に評価することを目的とする。これまで北大水産学部附属練習船おしょろ丸が採集した深海までの動物プランクトン層別採集試料のうち、一つの航海で西部北太平洋の3つの海域:亜寒帯域、移行領域、亜熱帯域、さらに3縁辺海(オホーツク海、日本海、東シナ海)において、水深3000 mまで採集した試料を用いて、分類群組成や標準化バイオマスサイズスペクトラム(NBSS)を解析し、海域や水深による違いを明らかにする。この得られた深海における結果は、本研究課題において、これまでに得られた浅海域における結果と合わせることにより、全球的な物質循環に果たす動植物プランクトンの役割を、包括的に評価する予定である。
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備考 |
研究室HP
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