研究課題/領域番号 |
17H01489
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
高橋 明義 北里大学, 海洋生命科学部, 教授 (10183849)
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研究分担者 |
天野 勝文 北里大学, 海洋生命科学部, 教授 (10296428)
安藤 忠 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 西海区水産研究所, 主幹研究員 (20373467)
水澤 寛太 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (70458743)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 緑色光 / ホシガレイ / メラニン凝集ホルモン / 黒色素胞刺激ホルモン / 脳 / 脳下垂体 / 皮膚 / オプシン |
研究実績の概要 |
[研究1]緑色光と行動:ホシガレイの行動に対する緑色光の効果を明らかにするために,ホシガレイを円型水槽に収容し,白色LED光と緑色LED光を交互に照射して,行動を動画に記録した。その結果,白色光照射と緑色光照射の間で,行動に有意な変化は認められなかった。しかし,種苗生産時と中間育成時では緑色光照射下で遊泳行動が活発になることが観察されているため,実験デザインの再考が必要と考える。 [研究2]緑色光とメラニン凝集ホルモン(MCH): MCH遺伝子の発現に至るまでに必要な緑色光照射時間を明らかにする前段階として,ホシガレイを白あるいは黒背地でそれぞれ12日間飼育した。また白背地で1,3,または7日間飼育した。その結果,白背地および黒背地間で,体色の明度に差はなかった。白背地に移行後1日の体色は移行前に比べて明るかったが、3日後と7日後の体色は移行前と同様であった。白背地移行後の脳内MCH mRNA発現量の変動は,ほとんど認められなかった。 [研究3]緑色光と脳および脳下垂体ホルモン: MCH以外の,緑色光に応答して発現が変動する遺伝子の同定を,緑色光を約1ヶ月間照射したホシガレイにおいて試みた。その結果,脳下垂体のソマトラクチンおよびC型プロオピオメラノコルチン(POMC-C)遺伝子の発現に減少傾向が認められた。 [研究4]緑色光と皮膚のホルモン遺伝子:ホシガレイの皮膚において,背地色とPOMC-C遺伝子発現の関係を解明するための前段階として,ホシガレイ皮膚で発現する光感受性タンパク質遺伝子の同定を行った。[結果]cDNAクローニングにより,有眼側皮膚においてエキソロドプシン,エンセファロプシン,メラノプシン,ニューロプシンの各遺伝子の発現を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初研究計画調書に以下の5項目を研究項目として掲げた。①照射時間と光強度,②水温依存性,③脳と脳下垂体のホルモン,④消化器系ホルモン,⑤肥満度とメタボローム。過去2年間の研究において,「①照射時間と光強度」については,さらに推進するべきとの知見を得た。「②水温依存性」については目的を達したため終了とする。「③脳と脳下垂体ホルモン」については新たな課題が生じた。「④消化器系ホルモン」については緑色光との関連性が低いことを認めたため終了とする。「⑤肥満度とメタボローム」については,代謝ではなく行動に力点をおくべきとの知見を得た。このように,研究の進展にもとづいて研究項目を整理して進めた結果,興味深い知見を得ることができた。それらは第一にメラニン凝集ホルモン以外の重要な要素があること,第二に皮膚の関与が考えられることである。
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今後の研究の推進方策 |
1.緑色光と行動:ホシガレイに限らずマツカワ,ヒラメ,マコガレイにおいて緑色光照射により活発に運動することが観察されている。よって,飼育密度,全長,水温などを考慮して実験デザインを改良することにより,所期の目的の達成を図る。 2.緑色光とメラニン凝集ホルモン(MCH):MCHは体色の明化と食欲の亢進に係わるとの前提のもと,本研究を進めてきた。しかし2019年度に得られた結果は,この前提を覆すものであった。緑色光がカレイの成長と代謝に及ぼす現象にはMCH以外の因子が関与していることは確実であり,これを見出すことが極めて重要な課題となった。 3.緑色光と脳および脳下垂体ホルモン:背地色(白と黒)の差異に応じて発現量が変造する遺伝子候補が,脳下垂体におけるC型プロオピメラノオルチン(POMC-C)遺伝子とソマトラクチン遺伝子であることが示された。これらの遺伝子と緑色光の関係を明らかにすることが急務となった。 4.緑色光と皮膚のホルモン遺伝子:ホシガレイの皮膚でオプシン遺伝子が発現することを認めたことは,皮膚が光を感知することを示唆する強力な証拠である。本年度はいよいよ,緑色光と皮膚で発現するPOMC-C遺伝子の関係を解明する。
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