研究課題
本年度は当初、Trichonympha属原生生物の代謝産物および共生細菌の解析を予定していたが、コロナ禍の影響により当初の予定時期に海外サンプリングが不可能となった。当面の状況の改善が見込めなかったため、従来の研究計画とは異なる角度から共生微生物が宿主に与える影響を解析することにした。本年の研究では沖縄県内に分布するスギオシロアリを用いて、共生微生物群集の人工的な改変操作と、共生微生物群集の変化によって生ずる腸内代謝産物の変化を網羅的に解析した。シロアリに木材、アガロース、デンプンを摂食させたところ、アガロースまたはデンプンの摂食によってシロアリ腸内の原生生物数は有意に低下した。木材の摂食によって原生生物数が回復することはなかったが、元のコロニー由来の個体との栄養交換によって原生生物数が有意に増加した。そこで、副基体類原生生物用の18S rRNA遺伝子用プライマーによって増幅されたDNA断片に含まれる各原生生物の配列の相対存在量を検討したところ、アガロースやデンプンの摂食によってFoania属及びDevescovina属原生生物は消失した。木材の摂食によって再回復することはなかったが、元のコロニー由来の個体との栄養交換によってこれらの原生生物は再度獲得された。このことから、スギオシロアリ腸内においてこれらの原生生物の多くはシロアリが摂食する木材に強く依存していることが示唆された。その反面、バクテリア組成は原生生物組成に比べると明らかな変化は認められなかった。木質消化酵素の活性は原生生物の増減と同調した変化をしており、さらに代謝産物解析を行ったところ、無処理の後腸と原生生物を再獲得した後腸内代謝産物量との間には正の相関関係があり、微生物除去処理によって失われた代謝機能の少なくとも一部は、栄養交換行動を介した微生物の再獲得によって回復することが示唆された。
3: やや遅れている
新型コロナウイルスの影響によって予定していた時期に海外でのサンプル採集ができなかったため、当初予定していた研究を進めることがほとんどできなかった。そのため、従来の研究計画に比べると進捗状況は「やや遅れている」と評価せざるを得なかったが、別の角度から当初の目的に沿った研究計画を再立案し、新たな研究の展開があった。
今後は、新型コロナウイルス感染症対策の緩和を待ってキゴキブリ後腸内共生原生生物の代謝産物解析を再開する。アメリカ・ジョージア州(Black Rock Mountain州立公園)より採集されたキゴキブリを用い、その後腸より懸案であったTrichonympha属原生生物をマイクロマニピュレーターによって回収する。原生生物の保有する代謝産物をCE-TOFMSによって解析すると同時に、原生生物に共生するバクテリア叢の解析進め、主要なバクテリアについてはシングルセルを用いたゲノム解析を実施する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
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