研究課題
有機合成化学や分析化学の進歩に牽引されて、化学者が扱える分子のサイズや構造複雑性は大幅に増大している。それに伴い、かつてなく高度で精緻な機能を発現する分子の創出や応用が可能となって来ている。本研究は、生体機能を担うタンパク質を精密に構造変換できる化学触媒・反応剤の創製と、タンパク質の構造展開を基盤とした新機能創出を目指すものである。抗体-薬物複合体(ADC)は、抗体医薬と低分子医薬の利点を併せ持つ次世代型ハイブリッド医薬であり、現在、独自のトリプトファン(Trp)修飾法を基盤とした新規ADCの創製に集中して研究をおこなっている。現在のADC製造法はLysやCys修飾に頼るものが主流であるが、不均質な修飾混合物を与えてしまう。ADCの薬効や安定性は薬物の結合位置により大きな差異を示すことが知られており、不均質ADCは薬効や品質にばらつきが生じる。均質ADCを用いればこの問題に対して改善が期待される一方で、その簡便合成法が現存しないため、生物学的な実証評価は立ち後れている。従来のLys/Cys修飾法を我々の開発したTrp修飾法に置き換えることで、均質性の高いADCを簡便に合成できると考えた。例えば市販ADCであるKadcyla(Lys修飾で製造)の抗体部Herceptinの三次元構造を解析すると、Lysは抗体表面に40残基以上存在する。これにランダム修飾がかかると300万通り以上の位置異性体が生じてしまう。一方で、TrpはFab領域に二つ、Fc領域に四つのみであり、これを修飾標的とすることで医薬結合数や位置異性体の分布を極小化できる。Trp修飾により、既存のKadcylaよりも優れたADCを創製できるものと期待している。実際に、Herceptinを抗腫瘍性分子でTrp修飾したADCが高収率で合成できること、さらにはこれがADC活性を示すことを明らかとした。
1: 当初の計画以上に進展している
ADCは、がんなどに対して非常に有効性の高い医薬であり、多くの製薬企業の注目を集めている。本研究では現在までに、独自に開発したタンパク質修飾法を基盤として、従来にない完全に新規なADCを合成しており、さらにはこれが医薬活性を示し得るところまで研究が進んでいる。
今回合成した新規ADCの動物試験を通して、その特徴を明らかにしていく。特に、均質性の面で従来の市販のADCに比べて優位点があり、これによる物性と活性への影響を調べる。さらに、さまざまな薬物の担持を検討し、ADC合成、あるいはより広く一般にタンパク質修飾法としての特徴を明確にする。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 6件、 招待講演 11件) 備考 (1件)
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