本研究では、生体機能を担うタンパク質を精密に構造変換できる化学触媒・反応剤の創製と、タンパク質の構造展開を基盤とした新機能創出を目指す。本研究で開発するタンパク質の構造変換法は、遺伝子発現からのボトムアップ法と相補的に働き、タンパク質の持つ生体・環境許容性ファインケミカルとしての優れた医薬・材料機能を最適化するための化学手法となる。また、本研究で産み出す触媒や触媒設計のための学理・概念は、低分子~中分子医薬品等の複雑な構造を有する多官能基性分子の革新的合成法の創出にも貢献する。 本年度は、リン酸エステルを酸化過程なしに合成できる方法の開発をおこなった。この反応では、従来は合成的にあまり利用されてこなかったピルビン酸エノールホスフェートをリン酸源として用い、硫酸水素テトラブチルアンモニウムを触媒として用いることで、リン酸上の保護基無し、酸化過程無しに多官能基性の基質に対してもリン酸エステルを導入することができた。反応機構解析の結果、新規活性種であるPOSOPが反応系内で生成し、これが化学選択的リン酸化剤として働いていることが分かった。 また、すでに開発していたトリプトファン選択的生体共役反応を用いて、抗体に葉酸をコンジュゲートする方法を開発した。がん細胞には葉酸受容体の発現が亢進していることから、本反応がADCCの基盤反応となりうることを示した。 さらに、無細胞系でヒストンタンパク質のリジン残基を広範にかつ高収率でアセチル化する触媒系を開発した。この触媒系により調製されるアフリカツメガエルの精子核クロマチンは、有用な生化学ツールになりうることを示した。
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