研究課題
研究計画に従って、体内時計の中枢を標的としたG蛋白質共役型受容体シグナルに基づく中枢リズム調整薬の開発に向けた調査スクリーニングを行った結果、これまでに研究代表者らが見出していたオーファンG蛋白質共役受容体Gpr176(Doi et al., Nature Commun. 2016)およびその下流のG蛋白質シグナル制御因子RGS16(Doi et al., Nature Commun. 2011)に関連して、今回新たに体温のサーカディアンリズム調節の鍵を握る分子としてカルシトニン受容体Calcrを同定することに成功した(Goda & Doi et al., Genes & Development, 2018; Goto & Doi et al., Endocr J, 2017)。この受容体は、体内時計の最高位中枢器官である脳内の視交叉上核の一部のニューロンに発現し、体温の日内変動パターンを規定する。同様のカルシトニン受容体ニューロン系はショウジョウバエにも存在し、ショウジョウバエにおいても同様に体温の時間依存的な適応に深く関与することから、本受容体を介した体温の日内変動制御は進化的に保存された原始的な仕組みであることがわかった。これら一連の研究成果は、エネルギー代謝や睡眠覚醒の制御に密接に関与する体温の日内制御において、これまで不明であった鍵となる脳内分子基盤を明らかにするものであり、新聞報道などにおいてもその発見の重要性が広く取り上げられた(朝日新聞 2018年2月14日 朝刊33面; 京都新聞 2018年2月14日 朝刊1面; 読売新聞 2018年2月17日 夕刊12面)。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の研究計画に従って体内時計の中枢を標的としたG蛋白質共役型受容体シグナルに基づく中枢リズム調整薬の開発に向けた調査スクリーニングを行った結果、本年度は研究が大変順調に進み、予想を上まわる良好な研究成果をあげることができた。すなわち、脳内のサーカディアンリズム中枢が体温の日内リズムを生み出す神経回路において、体温変動調節の鍵となる新規受容体分子としてカルシトニン受容体を見出すことに成功した(Goda & Doi et al., Genes Dev 2018)。さらに、米シンシナティ病院との国際共同研究を実施し、このカルシトニン受容体ニューロン系を介した体温制御が哺乳類にのみならず昆虫のショウジョウバエにも共通にみられる分子機構であることを示すことができた(朝日新聞2018/2/14朝刊33面; 京都新聞2018/2/14朝刊1面; 読売新聞2018/2/17夕刊12面)。これらの成果は、生物種を超えた共通の体温制御の分子基盤に迫るものであり、エネルギー代謝や睡眠覚醒制御の創薬標的として新たなG蛋白質共役型受容体シグナルを示す極めて重要な所見であると考えられる。この他にも、中枢時計の周期長を制御するオーファン受容体Gpr176を標的とした創薬スクリーニング課題において、当初計画した以上の数の規模で化合物ライブラリー検索を実施することができた。このように、当該年度において計画した個々の研究課題で進展が得られた。
前年度に引き続き、当初の研究計画に従って体内時計の中枢を標的としたG蛋白質共役型受容体シグナルに基づく中枢リズム調整薬の開発に向けた調査スクリーニングを行う。とくに、前年度までの研究調査によって良好な結果が得られつつある下記の課題に重点をおいて研究を進める。具体的には、体内時計の最高位中枢器官である視交叉上核を標的とした探索研究において、体温の日内変動パターンを規定する新たなG蛋白質共役受容体Calcrを同定することに成功した(Goda & Doi et al, Genes Dev 2018)。そこでこの成果の上に立ち、今後はこの視交叉上核Calcrニューロン系による体温の概日性制御の神経回路を明らかにすることを重要課題の1つとして発展させる計画である。また、この課題に並行して、中枢時計の周期長を制御するオーファン受容体Gpr176を標的とした化合物ライブラリー検索においては、これまでに得られた候補となる化合物群の性状を精査する。昨年に引き続き、Gpr176下流のGzシグナルおよびRGS16を介したcAMPシグナルの時間的変動に着目し、中枢時計のG蛋白質共役型受容体シグナルの時間変動機構に迫る研究を強化して推し進める計画である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
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