研究課題/領域番号 |
17H01529
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
南沢 享 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (40257332)
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研究分担者 |
赤池 徹 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (20647101)
草刈 洋一郎 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (80338889)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 肺静脈 / 酸素感受性 / 肺循環 / Pitx2 / 血管リモデリング / 心房細動 / 心房 |
研究実績の概要 |
肺静脈は高濃度酸素血に曝されること、左心房と接合する肺静脈部位は心房細動を引き起こす異所性刺激発生部位になることなど、体静脈とは異なる特殊な低圧系血管であるが、その血管特性の理解は進んでいない。一方、近年、肺動脈系の研究は著しく進展しているが、肺高血圧症(PH)など生命予後の不良な肺循環障害の病態機序は完全に解明されてはいない。本研究では研究代表者らが独自に開発した条件付き遺伝子改変動物をはじめ、他の研究室に比べて優位性のある小動物における血管実験手法を使って、肺静脈の構造的・機能的特徴が構築される分子機序を解明することを目的とする。平成29年度は以下の項目について、研究を実施した。 1.肺静脈の網羅的遺伝子発現解析:肺静脈の平滑筋細胞を分離し、大動脈、肺動脈、動脈管の平滑筋と比べ肺静脈特異的に発現する遺伝子の網羅的解析を行った。 2.肺静脈の構造・機能形成・維持におけるPitx2cの役割の解明:既に肺静脈の形成・維持に必須の役割を有すると考えられているPitx2cに関して、過剰発現マウスを作成し、またPitx2c欠損マウスを購入した。 3.PH-LHVDラットモデルの創成: 手術的に左房狭窄を作成し、新たなPH-LHDモデルを確立し、本モデルでの肺組織の網羅的遺伝子発現解析を行った。 4.肺静脈リモデリングに影響を与えるストレス及びシグナル伝達系の同定:ラット動脈管平滑筋細胞培養技術を応用して、肺静脈平滑筋細胞培養実験系を確立するための条件設定を行った。肺静脈平滑筋細胞の分離培養が可能であることが確認された。 5.血液ガスが肺静脈の収縮機構に及ぼす影響:肺静脈は低血圧系にありながら、全ての血管の中で最も酸素濃度の高い血液に常に曝されているという特殊性を有するため、ラット摘出肺静脈リング標本を使って、血管張力の測定が可能であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載した様に、平成29年度に実施すべき研究項目の全てにおいて、ほぼ計画通りか、計画以上に実験を行うことが出来た。 1.肺静脈の網羅的遺伝子発現解析:平成29年度に実施した。ただし、体静脈系の遺伝子解析が終了していないために、平成30年度にも網羅的遺伝子発現解析の追加実験を行う必要がある。 2.肺静脈の構造・機能形成・維持におけるPitx2cの役割の解明:Cre組換え酵素による発現調整可能なPitx2c過剰発現マウスは作成することができ、肺静脈/心房特異的にPitx2c過剰発現するマウスを繁殖できるようになった。またPitx2c欠損マウスを購入し、繁殖可能な雌雄マウスを増やして実験を遂行するための準備が出来た。 3.PH-LHVDラットモデルの創成: 手術的に左房狭窄を作成し、新たなPH-LHDモデルを確立できた。本研究については方法論を中心とした形で論文作成し、発表することができた。 4.肺静脈リモデリングに影響を与えるストレス及びシグナル伝達系の同定:ラット動脈管平滑筋細胞培養技術を応用して、肺静脈平滑筋細胞培養実験系を確立するための条件設定を行った。肺静脈平滑筋細胞の分離培養が可能であることが確認された。 5.血液ガスが肺静脈の収縮機構に及ぼす影響:肺静脈は低血圧系にありながら、全ての血管の中で最も酸素濃度の高い血液に常に曝されているという特殊性を有するため、ラット摘出肺静脈リング標本を使って、血管張力の測定が可能であることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は平成29年度の実績を踏まえて、以下の計画を推進する。 1.肺静脈の網羅的遺伝子発現解析:平成29年度に実施出来なかった体静脈系の遺伝子解析を早期に終了させて、肺静脈特異的に発現する遺伝子を同定し、機能的に重要と考えられる遺伝子の絞り込みを行う。 2.肺静脈の構造・機能形成・維持におけるPitx2cの役割の解明:Cre組換え酵素による発現調整可能なPitx2c過剰発現マウスは作成することができ、肺静脈/心房特異的にPitx2c過剰発現するマウスの表現型、特に心房や肺静脈・体静脈系の形態に関する研究を行う。心房特異的なPitx2c欠損マウスを作成し、表現型、特に心房や肺静脈・体静脈系の形態に関する研究を行う。 3.PH-LHVDラットモデルの創成: 新たに確立できたPH-LHDのラットモデルを使い、肺高血圧症に使用される薬剤が、本モデルに対して、有効かどうかの検証を行う。 4.肺静脈リモデリングに影響を与えるストレス及びシグナル伝達系の同定:ラット肺静脈平滑筋細胞の分離培養実験系を使い、種々のストレスや薬物(エンドセリン、プロスタサイクリン、トロンボキサンなど)に対する応答(増殖性、遊走性、細胞傷害性など)を観察し、肺静脈リモデリングへの効果を明らかにする。平成30年度は特に酸素とエンドセリンの影響に焦点を絞り観察を行う。 5.血液ガスが肺静脈の収縮機構に及ぼす影響:ラット摘出肺静脈リング標本を使って、血中酸素濃度、一酸化窒素濃度、二酸化炭素濃度が肺静脈の収縮拡張に及ぼす影響を明らかにする。
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