研究課題/領域番号 |
17H01531
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
成宮 周 京都大学, 医学研究科, 寄附講座教員 (70144350)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 皮膚バリアー機能 / NHEK細胞 / フィラグリン / アトピー性皮膚炎 / リゾフォスファチジン酸(LPA) / Rho / ROCK / SRF |
研究実績の概要 |
我々の皮膚は、外来物質の侵入や内部水分の蒸散を防止するバリアー機能を有し、その破綻はアトピー性皮膚炎等の疾患を惹起する。皮膚のバリアー機能は、皮膚の構成細胞である角化細胞が産生するケラチンやフィラグリン(FLG)などのバリアー蛋白質や脂質等によって担われている。これまで、各々のバリアー物質の生成経路や機能は調べられて来たが、これらが全体としてどう調節されているかは不明である。本研究では、培養ヒト表皮角化細胞(NHEK)に発現する受容体を系統的に同定、バリアー蛋白質, FLG, 発現を指標としてこれらに働く薬物や新規化合物を探索し、その作用をゲノムワイドに解析し、NHEK細胞でのバリアー機能制御機構を解明、これをマウス個体で実証、ヒトへの外挿を図ることを目的とする。研究第1年度である平成29年度は、NHEK細胞で発現されているG蛋白質連関受容体(GPCR)を系統的に同定し、その中から発現が高く細胞内情報伝達を異にする受容体3種を選択し、それぞれのアゴニストを用いて、アトピー状態を模したIL-4添加下でのNHEK細胞でのFLG誘導活性を検討した。その結果、NHEKでリゾフォスファチジン酸(LPA)がその受容体LPAR1とLPAR5に働き、Gα12/13-Rho-ROCK-SRF経路を介してFLGのみならず、様々なバリアー蛋白質を誘導して角化細胞の分化に働くことを見いだした。この作用は、ヒト皮膚の3次元培養系でも見られ現在アトピー性皮膚炎治療薬として使用されているJAK阻害薬より遥かに強力であった。また、LPAを塗布することにより、正常マウス皮膚で角化細胞分化の促進とdry skinモデルでのバリアー機能亢進を認めた。以上の結果をまとめ、論文を投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したように、本研究は、培養ヒト表皮角化細胞(NHEK)を用い、バリアー蛋白質であるフィラグリンの誘導物質を系統的に探索・同定し、それらの誘導メカニズムを解析して皮膚バリアーの生理的調節メカニズムを解明、アトピー性皮膚炎など皮膚バリアー破綻治療の分子基盤を形成することを目的としている。そのため、以下の順序で研究を推進する。① NHEK細胞の受容体発現プロフィールの同定と被験化合物の選定、②被験化合物のFLG誘導活性物質の検討、③ 前記検討で見いだされたFLG誘導物質のNHEKでのゲノムワイドな発現シグネチャーの同定, ④ 誘導物質の遺伝子発現に至るシグナル伝達経路の同定、⑤誘導物質/誘導系の角化細胞のcell autonomousな分化への関与の検討と内因性分化物質の探索と同定、⑥ ヒト皮膚3次元培養系での検討、⑦ 上記誘導物質の生体マウス皮膚のバリアー機能、アトピー性病態モデルでの有効性の検討。出発点であるNHEKの受容体発現プロフィールの同定は、膜受容体であるGPCRと核内受容体の2つのカテゴリーの受容体を対象に系統的に探索することにしており、平成29年度は、GPCRについて探索、この結果、LPA-LPAR1/5経路が角化細胞分化を促進することを見いだし、この経路について上記①から④、⑥と⑦の一部の解析を終えた。平成30年度は、残った⑤この経路が内因性の角化細胞分化、バリアー誘導・保持機構として働いているかについて検討することにしており、これをもって、本研究の2本柱の一つ皮膚バリアー機能に関するGPCRの研究は目的を達成することができる。また、もう一つの核内受容体についても、9.に記するように、出発物質を既に見いだし、その解析を開始している。このことから、本研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度には、6.研究概要に述べたLPA-LPAR1/5経路に加え、NHEK細胞でFLG誘導を起こす物質としてAngen8.1を発見し、これが核内受容体であるAryl Hydrocarbon Receptor (AHR)に働いてFLG誘導を起こしていることを明らかにした。以上の結果を踏まえ、平成30年度以降は、以下の研究を行う。 1.LPA-LPA受容体に関する研究:上記のように我々はLPAがLPAR1とLPAR5に働いて角化細胞分化を誘導することを見出したが、この経路が生理的な皮膚の分化にどの程度働いているか、また、病態生理にどう関係しているかは明らかでない。そこで、まず、マウス角化細胞でのこの経路の働きを確認、NHEKと同様の結果が認められた場合には、LPAR1とLPAR5の二重欠損マウスを作成しこの経路の皮膚分化、皮膚炎症での働きを解析する。 2.Amgen8.1-AHR経路の研究:AHRは皮膚防御と皮膚炎症の両方向に働くことが報告されている。これはおそらくリガンドによることと思われる。実際、NHEK細胞でAmgen8.1はconventional AHR ligandであるFICZと異なった遺伝子発現プロフィールを呈する。この違いがどういったメカニズムで起こるかを明らかにするため、一つはAmgen8.1の誘導体を系統的に化学合成しNHEK細胞でのFLG誘導に対する構造活性相関を明らかにする。また、AHRと結合する核タンパク質のNHEK細胞での発現を系統的に解析すると同時にRNA干渉法を用いてその枯渇を行ない、これのAmgen8.1によるFLG誘導に対する効果を検討する。この両方向の解析により、皮膚角化細胞でのAHRの選択的制御機構を解明、臨床応用の基盤形成を行う。これにより、AHRのもつ皮膚防御と皮膚炎症の両面性の分子基盤が解明できるものと思われる。
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