研究課題
我々の皮膚は、外来物質の体内透過や内部水分の蒸散を防止するバリアー機能を有し、その破綻はアトピー等の疾患を惹起する。この機能は、角化細胞が産生するケラチンや様々なバリアー蛋白質、脂質等によって担われている。一方、角化細胞は外的刺激により活性化され炎症惹起にも働く。これまで、各々のバリアー物質の生成や機能は調べられて来たが、これらが全体としてどう調節されているかは不明なままである。本研究では、ヒトの角化細胞であるNHEK細胞でのバリアー蛋白質発現を指標としてこれに働く化合物を同定、その作用をゲノムワイドに解析することにより角化細胞でのバリアー機能制御メカニズムを明らかにする。また、その個体での作用をマウスで実証、ヒトへの外挿を図ることを目的とする。本年度は、① TH2サイトカインであるIL-4存在下で、NHEK細胞で濃度依存性、時間依存性にバリアー蛋白質であるフィラグリン(FLG)遺伝子の発現を誘導する新規化合物X (知財のため構造を秘す)を見出した。② 化合物Xの遺伝子発現プロフィールをmicroarrayで解析し、これが角化細胞分化、keratinizationに関係する遺伝子を系統的に発現誘導していることを見出した。③ 更に、RNAiとantagonistsを用い、この作用が Aryl Hydrocarbon receptor(AHR)を経由していることを見出した。④ ついで、この化合物の誘導体を20種類有機合成しその構造活性相関を解析し、化合物Xより数十倍活性の強い2種の化合物を得た。⑤ これらの化合物のFLG発現とAHRの典型的な発現誘導遺伝子であるCyp1A1の発現誘導を比較し、FLG発現とCyp1A1発現誘導がdissociateすることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、ヒト角化細胞を用いて、そのバリアー機能を亢進する化合物を見出し、その作用を解析することで、バリアー機能制御メカニズムを解明することを目的としているが、本年度見出され化合物Xは阻害薬やRNAi実験から、核内受容体Aryl Hydrocarbon Receptor (AHR)に働いてFLG誘導・角化細胞分化を促進することが示唆されている。しかし、この化合物は、一方で、古典的なAHRアゴニストとは異なった遺伝子発現パタンを示し、AHRを含む独自の転写複合体に働いていると考えられる。AHRは、バリアーに関係すると言われている一方で皮膚での炎症惹起にも関係すると報告されており、この2つの機能の関係が不明である。化合物Xの作用機構を明らかにすることで、本研究の当初目的である角化細胞でのバリアー機能制御と炎症惹起のスイッチングメカニズムに迫ることが出来る。
本年度は、上記仮説を基に以下の実験を行い、化合物Xの作用機構を明らかにし個体での活性を検証する。1. Xの誘導体合成による標的同定プローブの作成と構造活性相関解明;これまでのXの誘導体化により、FLG誘導活性は100倍以上増加したが、親和性はμM以上に留まっている。誘導体化を進めて構造活性相関を明らかにし、高親和性誘導体を得て標的の同定を行う。2.化合物Xの作用機構解明 a. 化合物Xの作用time windowの同定;XによるFLG誘導は、添加後72~96時間後に最大となる。このことは、XによるAHR活性化がいくつかの段階を経てFLG誘導に至って居る可能性を示唆する。そこで、AHR antagonists, AHR RNAiを組み合わせ、XがAHRに働くtime windowを同定する。b. AHR co-factorsの同定;上記time windowでの転写因子・co-factorsの発現を同定、これらを網羅的にRNAiして、AHRと協力してXの作用を介達している転写因子の同定を図る。c. Xによる角化細胞分化機構の解明;上述の結果から、X(+)で培養下のNHEK細胞には、様々な分化段階の集団が混在して時間とともに最終分化へ収束しっていっているものと想定される。そこで、X(+)培養下のNHEK細胞を対象にsingle cell RNAseqを実施、得られたclustersをpseudotime analysisに供することにより、Xによる角化細胞分化過程を推定する。推定された各段階のclusterの遺伝子発現より、各分化過程で重要な転写因子を抽出し、その役割をRNAiで検証する。3. Xの生理作用の検討; 高活性のX誘導体を用い個体の皮膚バリアーへの作用を検証する。また、AHRの働きが想定されている免疫系などでの作用を検討する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件)
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