研究実績の概要 |
我々の皮膚は、外来物質の侵入や内部水分の蒸散を防止するバリアー機能を有し、その破綻はアトピー性皮膚炎等を惹起する。皮膚のバリアー機能は、角化細胞が産生するケラチンやフィラグリン (FLG) などのバリアー蛋白質や脂質等によって担われている。これまで、各々のバリアー物質の生成経路や機能は調べられてきたが、これらが全体としてどう調節されているかは不明である。本研究では、培養ヒト表皮角化細胞(NHEK)に発現する受容体を系統的に同定、FLG発現を指標としてこれらに働く薬物や新規化合物を探索し、その分子作用機序を解析して角化細胞でのバリアー機能制御機構を解明、これをマウス個体で実証、ヒトへの外挿を図ることを目的とした。これまでNHEKでリゾフォスファチジン酸(LPA)がLPAR1/5受容体に働き、G12/13-Rho-ROCK経路を介してFLGなどのバリアー蛋白質を誘導して顆粒表皮細胞への分化を促進することを見いだした。本年度は scRNA-seqを用い、LPAがNHEK細胞で顆粒細胞に加えて、THBS1やADAMTS1などを発現する未知の細胞集団を同時に誘導することを見出した。この細胞集団は、個体では表皮損傷で誘導されることが分かり、表皮の創傷治癒に関わっていることが示唆された。また、NHEK細胞で FLG発現を誘導する新規低分子量化合物Xを同定し、この作用がAryl Hydrocarbon Receptor (AHR)を経由していることを見出した。ついで、Xの誘導体を20種類合成し、Xと同様の強いFLG誘導活性を有する2種の化合物を得た。一般的なAHRリガンド(FICZ, TCDD)はFLGとともにCYP1A1、もしくはCYP1A1のみの発現を誘導するが、上記の誘導体の1化合物はFLGのみしか発現誘導しないという今までにないAHRへの作用を明らかにした。
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