研究課題/領域番号 |
17H01537
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
秋山 徹 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任教授 (70150745)
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研究分担者 |
山角 祐介 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任助教 (40773768)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 老化 / 寿命 / SASP / RNA結合タンパク質 |
研究実績の概要 |
我々は、RNA結合蛋白質Mex3Bの欠損マウスが野生型と比較して寿命が有意に延長し、さらに細胞老化も阻害されていることを見出した。本研究は、Mex3Bの下流で細胞老化に重要な役割を担う遺伝子を網羅的に同定し、個体老化と細胞老化の分子制御機構を明らかにすることを目的とする。昨年度改良した全ゲノム的な探索法により以前よりも多くの因子を候補因子として同定することができ、さらにその中には分泌タンパク質も存在することが判明した。我々はこの中で、機能未知な分泌タンパク質NTに着目し、生物学的機能の解析を行った。 その結果、NTの発現量はヒト線維芽細胞IMR90においてRas強制発現による老化誘導により増加すること、さらにこの増加はMex3Bのノックダウン(KD)により緩和することがReal time RT-PCRにより明らかになった。また、NTをKDすると、Ras強制発現による老化誘導が緩和されていた。以上の結果から、NTは老化を誘導する機能を有することが示唆された。 続いて、NTが分泌タンパク質であることを確認するため、IMR90の培養上清中に存在するNTの量を質量分析器にて検討した。その結果、NTは培養上清に存在し、さらにその存在量はRas強制発現による老化誘導によって増加する一方で、Mex3BのKDにより減少する傾向にあった。 以上の結果より、NTは老化を誘導するSASP様に機能する分泌タンパク質であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度行った改良法による全ゲノム的な探索の結果、Mex3Bの下流で細胞老化を制御すると考えられる因子が多数同定され、その中にはSASP様に働きうる分泌タンパク質も存在した。当初の探索法では、①絞り込みに使用したCLIP-seqとRNA seqにおいて用いた細胞が異なっていたこと、②老化誘導量の評価基準として用いた老化マーカー遺伝子p16の発現量はIMR90では低レベルであること、の2点が問題であったと考え、改善を試みた。具体的には、CLIP-seqをIMR90を用いて再度実施することで実験データを取り直し、またp16に代わる老化マーカー遺伝子としてp15を採用した。その結果、以前のスクリーニングよりも多くの遺伝子を候補因子として抽出することに成功し、その中にSASP様に機能することが期待されるNTも含まれていた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、本年度同定されたMex3Bの下流で老化を制御すると考えられるNTの生物学的機能の解明を行う。具体的には、NTがSASP様に機能しうるかを検討するため、NTを強制発現またはNDしたIMR90の培養上清もしくはリコンビナントのNTをIMR90に添加し、老化の変化を検討する。さらに、NTがSASP様に機能していた場合、その受容体の探索も試みる。また、個体レベルにおいて老化が誘導される条件下における同定因子の発現変動を明らかにすることで、生理的な老化制御における同定因子の重要性の評価を行う。加えて、動物個体における寿命およびインスリン感受性における標的因子の重要性を明らかにするため、標的因子の欠損マウスの作製を行う。 続いて、Mex3BがNTの発現を制御する分子機構を明らかにする。Mex3BはNT mRNAの3’UTRに結合すること、Mex3BのKDによりNT mRNAの発現が抑制されることから、転写後制御の可能性を第一に考えて解析を行う。
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