研究課題/領域番号 |
17H01542
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
油田 正夫 三重大学, 医学系研究科, 教授 (90293779)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マラリア原虫 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
マラリア原虫は一つのマスター転写因子が当該ステージの遺伝子発現全体を直接制御するというシンプルな遺伝子制御機構を有し、複雑なライフサイクルを26個の転写因子で維持している。各ステージの形成はステージ特異的転写因子の発現により開始され、その標的遺伝子の総体(ターゲトーム)は当該ステージのマスタープランを表現する。本課題はマラリア原虫特有のこの制御機構に着目し、全転写因子のターゲトームをChIP-seq 法で解析し、ライフサイクルをターゲトームのダイナミックな連鎖として統一的に理解することを目的とする。これまでに実施した研究では、すでに同定した雌性生殖母体分化に関わる性特異的転写因AP2-FGに続き雌後期の遺伝子発現に関わる新たな転写因子AP2-FG2を同定しChIP-Seq法による標的遺伝子解析を完了した。雌生殖母体ではこれに加え新たに2種類の転写因子を同定し標的遺伝子解析を実施した。以上により雌生殖母体における遺伝子制御の全貌を解明できたと考える。また赤血球内無性生殖ステージにおいてもその各増殖段階における転写因子を同定し標的遺伝子の解析を実施した。現在これらの転写因子の標的遺伝子のオントロジー解析、パスウエイ解析を実施しており、ターゲトームから赤血球内無性生殖ステージの増殖、感染維持、赤血球寄生、侵入等の機構を総合的に理解することを試みている。また蚊唾液腺及び肝臓への感染ステージであるスポロゾイトにおいても新たな転写因子を同定し解析を進めている。これらの新たな転写因子のターゲトーム情報を総合することでスポロゾイトでの遺伝子発現機構の全貌と、感染の分子基盤が明らかになってくると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究でマラリア原虫のライフサイクルの主なステージの転写因子を同定しそのターゲトームを決定することが出来た。またこのデータをもとにマラリア原虫生活環の“統合的理解”にむけて機能解析を実施中であり、本研究計画は順調に進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
ベクター内ステージのターゲトーム:スポロゾイトの蚊唾液腺への感染は約3週間を要する過程である。この過程ではスポロゾイトのマスター転写因子AP2-Spをすでに同定している。一方スポロゾイトは唾液腺感染前後で遺伝子発現パターンを大きく変化させるが、この変化はAP2-Spのみでは説明できない。本年度はこの制御に関わる転写因子を同定し制御機構を解明する。 肝臓ステージのターゲトーム:肝臓ステージのマスター転写因子として申請者らはAP2-Lを報告している。AP2-LはAP2-Spの標的遺伝子であり、すでにスポロゾイト期にmRNAが存在するが、それらは翻訳抑制を受けている。肝臓ステージはAP2-L mRNAの翻訳により始まり、赤血球侵入ステージであるメロゾイトの産生で完了する(全60-70時間)。最終ステップであるメロゾイト形成期には血液ステージと同じメロゾイトマスター転写因子AP2-Mが発現している。本ステージに関しても転写因子をすべて同定してChIP-seqを実施する。肝臓ステージはHepG2細胞を用い50%以上がメロゾイトを形成できる培養法が確立されている。発現ステージの確認とChIP-seqはこの系を用いる。 標的遺伝子情報の統括:これまでの転写因子と結合配列情報をもとにマラリア原虫における転写制御の基本原理を明らかにする。また各転写因子の標的遺伝子に機能アノテーションを付与し分類する。gene ontologyなど他の解析結果とともにデータベース化し、マラリ原虫のステージ形成原理を理解するための新たなプラットフォームを構築する。これらの成果によりターゲトーム研究の重要性を実証する。
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