研究課題
高等動植物に寄生することで特殊な進化を達成した病原細菌,Mollicutes綱(モリクテス綱)は,小さなグループであるにもかかわらず,3種類ものユニークな運動メカニズムを有している.私たちはこれまでの独自の研究で,Mycoplasma mobile(以下,モービレと略)の滑走運動メカニズムのアウトラインを明らかにし,Mycoplasma pneumoniae(以下,ニューモニエと略)などの滑走運動とSpiroplasma eriocheiris(以下,スピロプラズマと略)などの遊泳運動のメカニズムの理解に大きく貢献してきた.本研究では,これら3種の運動メカニズム全てを,構造,反応,進化の面から徹底的に究明する.昨年度までにモービレとスピロプラズマの力発生装置の中核部分と,ニューモニエのあしの主なタンパク質の構造を,電子顕微鏡を用いることで高分解能で明らかにした.今後はこれらの研究を完成させると同時に,運動メカニズムを解明するために必須ではあるが,まだ明らかにしていない構造に取り組む.また,これらの構造に関する新しい知見を基に,蛍光顕微鏡,光ピンセット,高速原子間力顕微鏡,急速凍結レプリカ電子顕微鏡法などを駆使した実験を行い,化学反応とのカップリングや力の発生と伝達についても明らかにする.昨年度に成功した,合成細菌syn3Bにおけるスピロプラズマ遊泳運動の再構築系を最大限に活用し,タンパク質改変に基づいた解析と細胞観察と生化学の間を埋める実験系を確立し,この系を他の二つの運動メカニズムにも応用する. さらにこの系をメカニズム解明のみではなく,運動能獲得の進化の解明にも活用する.
1: 当初の計画以上に進展している
【モービレの滑走運動】滑走装置の内部構造を単離し,クライオ電子顕微鏡による観察と,コンピューターによる像の計算を行うことで,6.7オングストロームの分解能で構造を明らかにすること,その構造に5つの構成タンパク質のうち3つを割り当てることに成功した.その結果,モービレの滑走装置がATP合成酵素と,解糖系においてATPを合成しているホスホグリセリン酸キナーゼから進化したことが示された.また,この内部構造の動きを,菌体の高速原子間力顕微鏡観察によりとらえることに成功した.さらに,あしのタンパク質の受容体ドメインの特定に成功した.【ニューモニエの滑走運動】滑走のためのあしを形成する重要なタンパク質,P1アドヘジンの構造の溶液X線散乱によるモデリングに成功し,さらにクライオ電子顕微鏡による解析を行うことで分解能3.1オングストロームで構造を明らかにした.また,菌体膜を界面活性剤で透過化したモデル,滑走ゴーストの確立に成功し,直接のエネルギー源がATPであると結論づけた.【スピロプラズマの遊泳運動】スピロプラズマに共通して存在するFibrilタンパク質から構成される,遊泳装置の中核となるリボン構造を単離し,その構造とバリエーションを従来型の電子顕微鏡で解析した. 20オングストロームの分解能で構造を明らかにすることに成功し,スピロプラズマの遊泳メカニズムがリボン構造のねじれで説明できることを明らかにした.さらにこのタンパク質と,真核生物のアクチンとよく似たタンパク質であるMreBタンパク質5種類を,合成細菌syn3Bにて発現することにより遊泳運動を再現することに成功した.syn3Bは,ゲノム操作で知られるクレイグベンター研究所で2016年に開発された,人工ゲノムを持つ合成生命で,小さな球状の細菌で運動能はない.また,これら遊泳に関与すると考えられる5種類のMreBタンパク質それぞれを合成,精製して,生化学的な特徴づけを行った.
【モービレの滑走運動】構成タンパク質の構造を,結晶化あるいは配列を基にした予想を行うことで,クライオ電子顕微鏡で得られた構造の全てに構成タンパク質を割り当てる.内部構造以外の部分については,単離したタンパク質の構造のみが明らかになっているため,複合体の単離と構造解析を行う.高速原子間力顕微鏡については,観察中に菌体が基板から外れることが問題となっているため,観察対象を菌体から滑走装置断片に変更し,ATP添加による動きの解析を行う.これまでに固形物表面にはりつけた菌のあしに光ピンセットで操作したビーズをつけてその動きと力を調べることに成功しているため,今後はこの方法を用いてあし1本の挙動を解明する.滑走に必要と考えられる約14のタンパク質をsyn3Bの系に発現し,装置と機能の構築を調べる.【ニューモニエの滑走運動】P1アドヘジンには,モノクローナル抗体による阻害,株間によるアミノ酸配列の違い,抗原性変化を起こす部位,などの数多くの研究者による興味深いデータが蓄積しているため,昨年度に得られた構造にアミノ酸配列を当てはめることでそれぞれの部位の機能を明らかにする.私たちは,以前に滑走装置の内部構造をクライオ電子顕微鏡で可視化したが,本年度はさらに高分解能での解析を行う.滑走に必要と考えられる約15のタンパク質をsyn3Bの系に発現し,装置と機能の構築を調べる.【スピロプラズマの遊泳運動】Fibrilタンパク質の構造をクライオ電子顕微鏡法で解析することで,分解能3オングストロームでの解明を行う.5種類のMreBタンパク質の生化学的な特徴づけを完成することと並行して,細胞膜やFibrilタンパク質との結合,重合・脱重合などのダイナミクスを単離した画分とsyn3Bの双方の系を用いて,光学顕微鏡により明らかにする.5種類のMreBの機能と遊泳における役割をsyn3Bの系を用いて明らかにする.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (18件) (うち国際共著 2件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 18件) 学会発表 (96件) (うち国際学会 51件、 招待講演 19件) 図書 (2件) 備考 (5件) 産業財産権 (1件)
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