研究課題/領域番号 |
17H01550
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
康 東天 九州大学, 医学研究院, 教授 (80214716)
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研究分担者 |
内海 健 九州大学, 医学研究院, 准教授 (80253798)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | p32 / ミトコンドリア / 自然免疫 / 癌幹細胞 / メタボローム |
研究実績の概要 |
(1)トランスオミクス的ミトコンドリア機能評価:まずを5台のLC-MS/MSを使い、高感度に1000分子の検出が可能なメタボロミクスの測定系を作り上げた。この系は、2017年度の本研究費に基づく研究成果の多くで、活用されている。そして、ミトコンドリ細胞全体ではなく、ミトコンドリア内代謝を特異的に測定するための高速、効率的に無傷のミトコンドリアを生成する方法法を開発し、細胞全体の代謝とミトコンドリア内特異的代謝を区別して測定する系を完成した(投稿準備中)。
(2)ミトコンドリア関連疾患の予防とその治療に向けた戦略的開発: (i) ミトコンドリア局在タンパク質p32の遺伝子KOマウスと免疫疫に関しては、p32-/- MEF細胞において、エンドトキシンであるLPS刺激により炎症性サイトカインIL6の発現が数十倍に増強すること、その分子メカかニズムがp32ノックアウトによるミトコンドリアストレスにより転写因子AT4発現が誘導され、AT4によりIL6の転写が促進されることであると明らかにした。マクロファージ特異的p32-/-KOマウスにおいて、LPSによる個体死が野生型に比べ明らかに増加することから、個体レベルでもミトコンドリアストレスがLPSによる自然免疫の過剰反応を引き起こすことを示した。(ii)ミトコンドリアストレス反応(mtレスポンス)と癌幹細胞化では、癌幹細胞化の可塑性を示し、可塑的に幹細胞化した癌細胞ではミトコンドリア呼吸が亢進し、ミトコンドリア翻訳を標的とした抗生物質ドキシサイクリンに感受性になることを見出た。このことは抗んガン剤治療において、ミトコンドリア機能を標的にすることの有効性を示している。(iii) p32遺伝子変異によるミトコンドリア病患者を解析した国際共同研究を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
p32-/-マウスと免疫に関連する研究に関しては、p32遺伝子KOによるミトコンドリアストレスがLPS誘導自然免疫反応を非常に強く増強させることとその分子メカニズムを明らかにできた。さらに、獲得免疫におけるミトコンドリア機能の関与を明らかにするために、抗原提示細胞である樹状細胞特異的p32-/-KOを作成し、抗原提示能の変化とその分子メカニズム解明へと研究を展開している。 癌細胞とミトコンドリア研究では、固形癌のみならず白血病化におけるミトコンドリア機能の貢献に展開し、血球細胞特異的p32-/-KOマウスに白血病発病モデルを組み合わせて、その白血病化を観察している。 ミトコンドリアDNA特異的転写因子であるTFAMを臓器特異的に過剰発現させるトランスジェーニックマウス作成に関しては、順調にCre-LoxPシステム制御下にTFAM遺伝子を導入したマウスが作成できた。今後、骨格筋、心筋、神経など臓器特異的に発現させるための交配を開始する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)トランスオミクス的ミトコンドリア機能評価検査診断システムの構築では、順調に臓器特異的なノックアウトマウスや臓器特異的発現マウスの作製が進んでいるため、それらがある程度そろった段階で、一斉にメタボローム解析を主としてプロテオーム解析プロテオーなどもを行う計画である。また、ミトコンドリア病患者の血漿も現在蓄積中であるが、ミトコンドリア病患者の遺伝子解析依頼の際に血漿も採取する計画であったところ、思ったよりもの遺伝子解析依頼の数が伸びておらず、予想よりも血漿サンプル収集に時間がかかると思われる。いずれは、各患者の遺伝子解析や症状から主たる臓器障害を想定して、血漿メタボローム測定結果を解析する予定である。
(2) ミトコンドリア関連疾患の予防とその治療に向けた戦略的開発では、ミトコンドリア病モデルとして、p32遺伝子の臓器特異的マウスを用いた、癌や免疫疾患などの一般的疾患の発病や進展などにおけるミトコンドリア機能の貢献を分子レベルで解析しているが、臓器特異的遺伝子改変マウスの種類の増加に応じて、対象疾患を心不全や神経変性疾患へと拡大していく予定である。特に癌では、様々な臓器癌におけるp32遺伝子KOの影響を解析することで、発癌と薬剤治療におけるミトコンドリア機能状態の変化どのように関与するかを一般化していく計画である。 さらに、患者の疾患解析に適した新しい解析対象を求めて、血中や尿中のマイクロベジクル(MV)をターゲットとする計画を立てている。MVは由来細胞の細胞膜にDNAやオルガネラも含むので、血液を用いた臓器特異的解析に適している。現在、由来細胞ごとに分類されたMVサンプルの調整法の開発に取り組む準備を進めている。
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備考 |
研究室の研究内容の概要を紹介
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