研究課題
疫学調査から、糖尿病合併妊娠ではその児に様々なタイプの先天異常が発生するリスクが亢進することが知られている。本研究は、ストレプトゾトシンで誘発した糖尿病雌マウスを使用して先天異常が発生するメカニズム及びこれと関連した発生現象を明らかにすることを目指しており、本年度は以下の結果を得た。・糖尿病と胚レチノイン酸:糖尿病雌マウスに発生する胚はレチノイン酸代謝酵素Cyp26A1の発現が減少し、外来性のレチノイン酸に対する感受性が亢進することが報告されている。レチノイン酸シグナルを可視化するレポーターマウスRARE-LacZを使用して、母体の糖尿病が胚のレチノイン酸シグナルに与える影響を調べた。すると、e8.2(左右軸形成期)及びe9.5において、正常胚と糖尿病由来胚の間でX-gal染色の明白な違いは観察されなかった。前年度までに新しいレチノイン酸レポーターマウスの作出を試み、既存の実績あるレポーターマウスの標的配列のみをRAREに置き換えたノックインマウスを作出したが適切な活性を得られなかった。作出したライン固有の問題である可能性を考え、同レポーターの受精卵マイクロインジェクションによってトランスジェニックマウスを作出したが、やはり適切な活性を得ることができず、作出のベースとしたレポーターのプロモーター領域と組み合わせができないことが確定した。・Wnt3aエンハンサーの解析:糖尿病雌マウスの尾芽ではWnt3aが抑制され、尾部退行症候群に至ることが示唆されている。私たちはWnt3aのエンハンサー解析によって胚後方で活性を有する配列を同定しており、糖尿病と関連づける目的でCRISPR/Cas9によって同定された領域を欠失したマウスを作出した。この変異の表現型を調べるために初期胚におけるWnt3a発現と胚形態を観察したところ、野生型とホモ変異胚で明白な違いは観察されなかった。Wnt3aの胚後方の発現は複数のエンハンサーで制御されていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
Wnt3aエンハンサー欠失マウスの表現型は期待したものではなかったが、想定の範囲内であり、これを踏まえて次の実験をすすめていく。
レチノイン酸レポーターマウスに関しては既存のものを利用し、その情報を活用する。Wnt3aエンハンサー欠失マウスに関しては、Wnt3a null変異マウスと交配させることで、再度、表現型を確認する。その他は計画に沿って進めていく。
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Sci Rep.
巻: 9 ページ: 11953
10.1038/s41598-019-48321-y