研究課題/領域番号 |
17H01574
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
吉川 武男 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (30249958)
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研究分担者 |
木村 英雄 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所, その他 (30321889)
大西 哲生 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 副チームリーダー (80373281)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 死後脳 / イオウ / 遺伝子改変マウス / 酸化ストレス / 炎症ストレス |
研究実績の概要 |
これまでの研究から、統合失調症のモデルと考えていたマウスでは、脳発達期の酸化・炎症性ストレスによって、硫化水素産生系の酵素遺伝子の発現増加が成体まで継続しており、そのメカニズムとしてDNAメチル化を介するエピジェネティックス変化が認められた。そして硫化水素産生系の酵素遺伝子の発現増加は、生化学的にも結合型イオウの増加として観察された。硫化水素は、抗炎症、抗酸化作用があるため、ストレスに対する代償反応の過剰がエピゲノム変化として記憶された可能性がある。 以上の結果を元に、H30年度は、 ①マウスで硫化水素産生系の酵素遺伝子を改変した際の動物行動評価、脳でのイオウの生化学解析のために、Mpst KO mice、Mpst Tg miceを樹立した。予想通り、Mpst KOマウスではプレパルス抑制試験(PPI)が改善し、逆にMpst TgマウスではPPIの悪化が認められた。また、Mpst KOマウスでは結合型イオウが有意に減少していた。Mpst Tgマウス脳では蓄積イオウに有意な変化は認められなかった。これは、transgeneの発現量が蓄積イオウの変化を検出するほどには増強していない可能性が考えられた。 ②統合失調症死後脳での硫化水素産生系の酵素遺伝子の発現レベル、および代表的な抗酸化系酵素遺伝子の発現を評価した。統合失調症死後脳では、MPSTおよびCBSの発現量が対照群に比較して有意に上昇していた。CTHには変化がなかった。抗酸化系酵素遺伝子として、SOD1, SOD2, CAT, GPX1, GPX4を調べたが、CATが統合失調症死後脳で有意に発現上昇していた。 ③「過硫化ストレス」の機能的帰結としてのパルミトイル化の評価を、モデル動物ないしヒト統合失調症死後脳を用いて行ったが、有意な変化は検出できなかった。機能的帰結として他の可能性を考える必要が認識された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
硫化水素産生酵素遺伝子であるMpstのKOマウスとTgマウスの作成、およびその解析を完了し、期待していた結果が得られた。また、統合失調症で硫化水素の産生が亢進する原因として、炎症・酸化ストレスに対する代償反応の枠組みで考えられることが、CAT遺伝子の発現上昇から支持された。
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今後の研究の推進方策 |
「過硫化ストレス」の機能的帰結にアプローチすることが引き続き重要であると考えており、Mpst KOマウスおよびMpst Tgマウスを用いた網羅的遺伝子発現解析法であるRNA-seq解析を行い、重要なパスウェイの抽出を目指す。
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