研究課題/領域番号 |
17H01578
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田原 秀晃 東京大学, 医科学研究所, 教授 (70322071)
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研究分担者 |
土岐 祐一郎 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (20291445)
内田 宏昭 東京大学, 医科学研究所, 講師 (20401250)
田中 晃司 大阪大学, 医学部附属病院, 助教 (70621019)
植松 美影 (濱田美影) 東京大学, 医科学研究所, 特任研究員 (90769449)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 腫瘍溶解性ウイルス療法 / 腫瘍免疫 |
研究実績の概要 |
我々は、任意の抗原を持つ細胞にだけ特異的に侵入・感染することが可能な侵入標的化腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス(Receptor retargeted- oncolytic herpes simplex virus; RR-oHSV)を開発してきた。これは、野生型HSVが侵入・感染するために用いる元来の受容体に結合できないよう改変するとともに、標的細胞の膜上に存在する抗原に特異的に結合する単鎖抗体をgD部分に搭載したものである。本研究では、このRR-oHSVの腫瘍細胞に対する直接的殺細胞効果を高めることを目的として作製した、膜融合活性が高く細胞膜融合型の細胞死(syncytial cell death: SCD)をきたす遺伝子改変を加えた改変型RR-oHSV(SCD-RR-oHSV)についての検討を進めている。本年度は、このSCD-RR-oHSVが、in vitroだけではなく、in vivoにおいても抗原特異的侵入能を失うことなく細胞融合型の細胞死を強力に誘導できるか否かについて検討を進めた。具体的には、免疫不全マウス(SCID-Beige)に、U87(hEGFRを発現するヒト・グリオーマ細胞株)を接種し、十分な大きさの腫瘍を形成した後に、抗hEGFR単鎖抗体を搭載したSCD-RR-oHSVを腫瘍内投与した。その後マウスを犠牲死させ腫瘍組織を採取し組織学的に検討したところ、腫瘍内には多くのSCDをきたした腫瘍細胞が存在し、かつ周辺の正常組織には障害が発生していないことが確認された。このベクターによる直接的殺細胞効果だけでなく免疫学的機序も含めた抗腫瘍効果の機序について検討するために、hEpCAM遺伝子を発現させたCT26(マウス大腸癌腫瘍細胞株、hEpCAM-CT26)を同系であるBALB/cマウスの皮下に移植した腫瘍モデルの予備検討を進めている。またヒト組織における免疫抑制因子発現についても検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標である「oHSVを用いた効果的ながん免疫療法の開発」のため、oHSVのさらなる改良と併用する免疫療法の開発の両面から研究を進めている。柱としての検討項目は(A)膜融合能増強型標的化改変型oHSVの抗腫瘍効果と免疫誘導に与える影響、ならびに、 (B)免疫抑制解除法をoHSVと併用する効果、の二点である。(A)に関しては、①SCD-oHSVの直接的殺細胞機能の解析、②SCD-oHSVの宿主免疫反応存在下での殺細胞機能と免疫反応関与に関する解析、そして、③腫瘍細胞におけるSCD-oHSV感染による免疫抑制因子発現誘導の検討の細目に分けた研究を提案した。(B)に関しては、①同系マウス腫瘍モデルを用いたoHSVと抗MFG-E8抗体の併用によるin vivoでの検討、と同時に、②ヒトのがんにおけるMFG-E8発現様式とその役割の検討、も行うことを計画している。平成29年度の研究では、我々のベクターの機能について、特にin vivoにおける多くの知見が得られた。今後の検討を着実に進めていける準備が整い、当初計画では平成30年度以降に予定していた検討項目についての、有益な予備情報も得られつつある。ヒト組織における検討に関しても、発現検討は順調に進んでおり、今後臨床情報との関連付けなどの作業を続けている。以上の事から、本研究は、概ね当初の予定通り進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究により得られた成果を基にして、計画通り研究を進めて行く。(A)膜融合能増強型標的化改変型oHSVの抗腫瘍効果と免疫誘導に与える影響、に関しては、SCD-oHSVの直接的殺細胞機能に関しては多くの知見が得られつつあるので、SCD-oHSVの宿主免疫反応存在下での殺細胞機能と免疫反応関与に関しても解析を始める。特に、SCD-oHSVによる腫瘍破壊に関連した免疫反応に関しては、DAMPSなどの免疫促進因子の検討にとどまらず、免疫抑制因子の関与についても検討を始める。マウスモデルで得られた腫瘍組織については、組織切片を作製し、H&E染色および免疫組織染色を行い、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の集簇状況やその構成についても検討し、フローサイトメトリーでの解析と総合してTILの構成や機能について検討する。特にT細胞サブセットと樹状細胞について詳細に検討するため、CD4, CD8, CD11b, CD83、そして制御性T細胞のマーカーであるFoxp3などをABC法により染色し、その数およびCD8/Foxp3などの比についても検討する。また、免疫抑制解除法をoHSVと併用する効果に関しては、マウス腫瘍モデルおよびヒトのがんにおけるPD-L1やMFG-E8を始めとする免疫抑制因子の発現様式とその役割についての検討を進める。
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