研究課題/領域番号 |
17H01579
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岩田 博夫 国立研究開発法人理化学研究所, 科技ハブ産連本部, グループディレクター (30160120)
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研究分担者 |
安波 洋一 福岡大学, 医学部, 教授 (00166521)
後藤 昌史 東北大学, 医学系研究科, 教授 (50400453)
有馬 祐介 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (90402792)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖尿病 / ランゲルハンス島 / 同種移植 / 皮下 / 拒絶反応 |
研究実績の概要 |
申請時のサブ課題とそれらの現在までの進捗状況をまとめる。 背景:ラット皮下に塩基性線芽細胞増殖因子(bFGF)また放線菌由来環状ペプチド(SEK)を含侵させたアガローススポンジを用いて血管の豊富な膵島移植部位を作成し、同種膵島を移植したところ免疫抑制剤不使用下でも長期生着すること見出した。この結果が本科学研究費で行う研究の背景である。 2018年度終了時までの研究実績の概要:①ラットを用いて皮下に移植された同種膵島の免疫抑制剤不使用下での生着機構の解析:膵島移植前後で移植部位の免疫学的な解析を行ったところ、両系において共通して組織中の制御性T細胞の密度が高くなり、免疫抑制環境が形成されていることが示唆された。これが拒絶反応が起こらない一つの要因であると考えている。この結果を論文にして投稿し採択された(報告論文1)。②移植部位形成に用いる材料:アガローススポンジは人臨床での使用が認められている材料ではない。そこで、既にヒト臨床で使用されているコラーゲンシートとヒアルロン酸溶液を用いて皮下に膵島の移植部を作成することを試みた。従来用いてきたアガローススポンジとそん色ない結果を得ることができた。この結果は論文として採択された(報告論文2)。③iPS/ES細胞からの膵島の分化誘導とその糖尿病マウスでの糖尿病正常化能の評価:ヒトiPS細胞から膵臓前駆細胞さらに膵島細胞へステップ分化誘導を行っている。膵臓前駆細胞がある条件下で、ほぼ無限に増殖できることを明らかにし、この結果を報告した論文が採択された(報告論文3)。④カニクイザルES細胞からの膵島の分化誘導:カニクイザルiPS細胞を入手し、実験用の凍結ストックが作成できた。⑤糖尿病カニクイザルをモデル:サル皮下に血管が豊富な部位の作成や、サル膵臓から分離した膵島を皮下に移植するなどの検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時のサブ課題とそれらの現在までの進捗状況をまとめる。 ①ラット・マウスを用いて皮下に移植された同種膵島の免疫抑制剤不使用下での生着機構の解析:ラット系において組織中の制御性T細胞の密度が高くなり、免疫抑制環境が形成されていることが示唆された。岩田らは、これが拒絶反応が起こらない一つの要因であると考えている(論文1)。一方では、安波らはマウス同種膵島移植で、制御性T細胞に依存しない系もあることを示唆する結果を得ている。②ヒト臨床で使用できる材料:ヒト臨床使用可のコラーゲンシートとヒアルロン酸溶液を用いて皮下に膵島の移植部を作成を試みた。従来の結果と遜色ない結果を得ることができた(報告論文2)。③iPS/ES細胞からの膵島への分化誘導:培養液の組成を段階的に変更してヒトiPS細胞から膵臓前駆細胞へさらに膵島細胞へ分化誘導を行っている。分化誘導途中で得られた膵臓前駆細胞がある組成の培養液中で増殖することを見出した。また、その培養中に未分化細胞を除去できる(論文3)。この方法を用いると、細胞の純化でき、さらに、ヒト治療に必要な大量の細胞の確保が容易になる。④ヒトiPS細胞から分化誘導した膵臓前駆細胞また膵島細胞の移植にとる糖尿病治療効果:ヒトiPS細胞由来の膵臓前駆細胞また膵島細胞を安波が糖尿病免疫不全マウスに移植し、その糖尿病治療効果の判定を行っている。現在経過観察中である。⑤糖尿病カニクイザルをモデル:後藤らはカニクイサル皮下に血管が豊富な部位の作成や、サル膵臓から分離した膵島を皮下に移植するなどの検討を行った。カニクイザル皮下に自家膵島の移植を行ったところ、移植後23日経過した後も、生存している膵島を見出した。⑥カニクイザルES細胞からの膵島の分化誘導:カニクイザルiPS細胞を入手し、実験用の凍結ストックが作成できた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であるので、当初目標を達成すべく努力する。 ①マウス同種膵島移植モデル:皮下膵島移植で拒絶反応が起きない機構をより詳細に検討する。移植部位またリンパ節、脾臓などの免疫学的な解析等を行う。②カニクイザルを用いて免疫抑制不使用下での同種細胞の皮下移植を成功させる。:iPS細胞は多能性を有する細胞である。カニクザルへのカニクザルiPS細胞の移植は、同種細胞移植の拒絶反応の良いモデルになると考える。カニクイザルの皮下に血管網の豊富な部位を作成し、この部位にカニクイザルiPS細胞を移植し、テラトーマの形成の有無を調べる。もし、拒絶反応が起きれば、移植iPS細胞は死滅しテラトーマは形成されない。移植部位、移植部位近傍リンパ節、脾臓などの免疫学的な解析を行う。③カニクイザルiPS細胞から膵前駆細胞また膵島細胞の分化誘導:ヒトiPS細胞から膵前駆細胞また膵島細胞の分化誘導を行った方法を基に、カニクイザルiPS細胞から膵前駆細胞また膵島細胞の分化誘導を試みる。本科学研究費の交付されたころからカニクイザルES細胞の膵前駆細胞また膵島細胞への分化誘導を試みてきたが、種々困難に出会ってきた。この困難がヒトとカニクイザルの種の違いに起因するのか、または、ES細胞の細胞株の性質に起因するのか明らかでない。新たに入手したカニクイザルiPS細胞を用いて分化誘導条件を詳細に検討することで膵前駆細胞また膵島細胞の分化誘導を行う。以上の研究が順調に進めば、④糖尿病カニクイザルの皮下にiPS細胞由来膵島の同種移植を行い、随時血糖値、糖負荷試験、組織学(H&E染色、インスリン、C-ペプチド、グルカゴンの免疫染色)的検討を行う。
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