研究課題/領域番号 |
17H01584
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
齋藤 直人 信州大学, 学術研究院保健学系, 教授 (80283258)
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研究分担者 |
手嶋 勝弥 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (00402131)
宇田川 信之 松本歯科大学, 歯学部, 教授 (70245801)
中村 真紀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (00568925)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 癌骨転移 / 抗癌剤 / 抗破骨細胞薬 / カーボンファイバー / カーボンナノホーン / Drug delivery system |
研究実績の概要 |
癌転移骨環境においてCarbon fiber(CF)は、微小な血管に入りにくく癌転移骨内に留まることが示された。CFは抗癌剤(CDDP)を複合し徐放させるDDSとしての働きがあることを明らかにした。In vitroではCDDP群に比べ、CF-CDDP群は緩徐に癌細胞の増殖を抑制した。In vivoではCDDP 静脈注射群で癌抑制効果は認めなかったが、CDDP 局所注射群、CF-CDDP 局所注射群では癌抑制効果を認めた。またCFをDDSに使用すると血中抗癌剤濃度の急激な上昇を抑えることができた。さらに実際に癌転移により破壊された骨にCDDPとCF-CDDPを投与した結果、線維性骨組織はCF-CDDP群が有意に多く、CFは癌転移骨内で新生骨の足場となって骨修復を促進することが示された。転移性骨腫瘍環境における骨破壊や疼痛に対して、ビスホスホネート(BP)をカーボンナノホーン(CNH)に付加した複合体CNH-BPを作製し、その有効性をin vivo試験で評価した。雌性Ratの骨粗鬆症モデルで、脛骨髄腔に骨孔を作製しサンプルを埋入、術後12週までの骨密度をCT撮影にて評価した。CT撮影評価にて、BP局所単回投与群では術後4週にて全骨密度の一定回復が見られたが、その後は殆ど改善しなかった。その一方でBP複合体単回投与群では、術後4週でBP局所単回投与群と同程度の全骨密度の改善を確認し、さらに術後12週まで全骨密度が継続して改善した。加えてBP局所単回投与群よりも全骨密度が有意に改善する結果が得られ、特に海綿骨の改善を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
CFは骨再生の足場材として適切なサイズであり、CDDPを複合し徐放させるDDSとしての働きがあることが、2020年9月にRSC Advances誌に「Carbon fibers for treatment of cancer metastasis in bone」として掲載された。一方、骨粗鬆症モデルラットを用いたin vivo試験にてBP複合体による十分な骨密度の改善を確認できている。現在は骨組織標本を作製し、更に詳細な評価を行っている。またin vitro試験で得られた結果は2021年1月にACS Applied Materials & Interfaces誌に「Ibandronate-loaded carbon nanohorns fabricated using calcium phosphates as a mediator and their effects on macrophages and osteoclasts」として掲載された。この論文は産業技術総合研究所と信州大学からプレスリリースされ、複数の新聞等に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
CF-CDDPは、腫瘍を抑制するために十分な量の抗癌剤を使用しても副作用が生じにくい、有用なシステムを提示することができた。これは、癌転移骨環境において癌を抑制すると同時に、破壊された骨を修復する初めてのシステムである。癌腫や抗癌剤の種類、量を変えた実験プロトコルやカーボンマテリアルの表面構造を変化させて担持できる抗癌剤量の調節ができるようになるとより実用的となることが予想され、さらに研究を進める。一方、CNH-BPは骨組織評価等を行いBPの種類、粒径サイズの最適化を更に検討していき、並行してがん骨転移モデルに対するBP複合体の効果を確認していく。最終的に、CF-CDDPとCNH-BPを複合し、癌を抑え込み破骨細胞を抑制して骨形成を促進する、新しい転移性骨腫瘍治療システムを構築する。
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