研究課題
これまでの研究成果で、着床から個体発生へ向かう過程で、卵子型凝縮クロマチンの初期化がおこり引き続き雌雄ランダム型クロマチン凝縮がおこることを明らかにし、その因子としてOCT4タンパク質がクロマチンのオープナーとして寄与することを見いだしてきた。このランダム型凝縮は成体で一生続くことになる。X染色体不活化確立・維持機構の破綻は、胚性致死に至る重大な結果に至る。一方、X染色体不活化の乱れとして、父母由来ランダムな不活化でなくどちらかの由来に偏った場合(Skewed X-Chromosome Inactivation; Skewed XCI)、先天性疾患の病態や様々な疾患に関連することが知られている(Am J Hum Genet 1996, JCI 2007)。今年度は、特定の疾患でその病態の起因には、Skewed XCIが関与し着床数日前の受精胚における数個の細胞で引き起こされることを初めて明らかにした(Hum Reprod 2019)。患者側の解析からヒト受精胚に起こるX染色体不活化動態が疾患の病態と大きく関係することが明らかになった。初期発生動態から健康・疾患を考えるボトムアップ的な視点と、本成果は疾患から詳細な解析をすると着床前期胚の細胞で起こっていることが病態とつがるというトップダウン的なアプローチを明確に示すことができた。さらに、Oct4以外の多能性因子が胚盤胞でのクロマチンの初期化と成人型ランダムのX染色体不活化に関与することが明らかにし、その遺伝子発現の乱れから着床周辺期での原始内胚葉組織で遺伝子発現の乱れが集積することがわかった(FEBS Lett 2020)。今後は、着床周辺期以降での分子機構解明をより重点的に進め、同時にヒト組織、幹細胞モデルおよびヒト受精胚による研究を進めることで女性医学および先天性疾患の病態研究の発展へ貢献していく。
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