研究課題
本申請全体を通しての柱となる研究コンセプトは「多様な細胞集団からなる上咽頭癌組織構築過程をEpstein-Barr ウイルス(EBV)、内因性免疫、オートファジーを柱として解明し、新規治療戦略を開発すること」である。具体的には、以下の3項目を中心に研究を展開する。すなわち、1) EBVと細胞に備わる内因性免疫の相互作用がミトコンドリア不良化に及ぼす影響と上咽頭上皮細胞が癌幹細胞化し多様に分化した癌細胞集団を形成する過程を分子レベルで解明する。2) 癌治療における喫緊課題である薬剤耐性獲得上咽頭癌細胞分画に対する有望なアプローチとして見いだした細胞競合・オートファジーを応用した新規治療法を開発する。3) ヒト上咽頭癌細胞ではなく癌組織を有する上咽頭癌異種移植モデルマウスレパートリーを作製し、これまで困難であった腫瘍内癌細胞多様性の解析に加え、腫瘍間癌細胞多様性に関する解析を行い、次世代の上咽頭癌研究ならびにオートファジー制御による治療法開発の礎を築く。ことを目的として研究を開始した。そして、上咽頭癌組織におけるEBV感染,APOBEC発現、そしてミトコンドリアDNA(mtDNA)変異シグネチャーについて解析し、上咽頭癌のmtDNAにはAPOBEC特異的な変異が多数導入されていることが判明した。細胞競合現象の実験の呼び段階としてリコンビナントEBVを入手し、遺伝子組み換え研究計画について大臣認可を取得した。また、患者癌組織移植マウスの作成については各種頭頸部癌組織を用いての移植条件の最適化を行い、おおよそ20%という他の報告と比較しても高い生着条件の設定を行うことができた。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は本申請書に記載した研修仮説「EBV感染により誘導されたAPOBECがEBVゲノムへの変異導入と同時に核やミトコンドリアDNAに変異を高頻度に導入することで上咽頭癌幹細胞化を促進する」について、上述のごとく上咽頭癌のmtDNAにはAPOBEC特異的な変異が多数導入されていることを明らかにできた。この第一番目の仮説が予想通りであることを明らかにできた成果は大きいと考える。また30年度のウイルス感染によるAPOBEC誘導と特異的変異導入の前向きな検証と細胞競合現象によるウイルス感染細胞排除機構の解明に関する研究遂行に必須である組み換えEBVを用いた研究の下準備が順調に進んだこと、そして、申請前に一例で成功していた患者癌組織移植マウスについて、各種頭頸部癌を用いた患者癌組織移植マウスのレパートリー作成が増えたこと、また、その移植手技に必要な研究方法についての最適化を研究開始の最初の年度に成果が得られた。以上の理由から、研究の滑り出しとしてはとても順調な経過であると判断した。
30年度はまず準備が整いつつあるウイルス感染によるAPOBEC誘導と特異的変異導入の前向きな検証として「上咽頭上皮由来細胞NP69へGFP-LMP1発現ウイルスを遺伝子導入する」ことに加え、組み替えEBV感染細胞におけるAPOBEC誘導を特異的変異導入解析から始める。そしてNP69と上述GFP-LMP1発現細胞、さらには組み替えEBV感染細胞を用いた細胞競合現象の観察、そして正常細胞の競合能増強によるウイルス感染細胞排除機構の解明に関する研究遂行に着手する。そして、各種頭頸部癌患者癌組織移植マウスレパートリーを用いた抗がん剤の感受性試験と培養細胞の試験管内での感受性試験との比較から実際の臨床での癌の特徴に患者癌組織移植マウスが近い特徴を有することを確認する。オートファジー関連の研究ではクロロキンを用いたオートファジー増強効果による抗がん剤の感受性増強効果に関する研究を推進するとともに、当初は計画に盛り込んでいなかったがウイルス感染による遺伝子発現制御機構としてメチル化の影響を調べるための研究方法最適化を行う。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件)
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