研究課題
29年度の実績は下記の4点にまとめられる。(1)α細胞様細胞株aTC1-6細胞を用いてGluOCがα細胞に直接作用してGLP-1分泌量を修飾する機序について検討した。GluOCはGLP-1産生への変換酵素PC1/3の遺伝子発現を促進し、培地グルコース濃度などが影響する傾向を認めた。またPC1/3の酵素活性を阻害する内在性因子のPcsk1n遺伝子の発現が低下する傾向を新たに見出した。(2)高濃度OCの3T3-L1脂肪細胞に対する影響について以下の点を明らかにした。①cAMP濃度およびCREBのリン酸化亢進 ②CREBの転写共役因子p300の脱リン酸化亢進 ③PKA触媒サブユニットの核内局在亢進 ④多点タイムラプス動画による細胞膜破壊像および脂肪滴分解像の取得 これらから、高濃度OCでは脂肪細胞の脂肪滴縮小や細胞死がもたらされることが分かった。(3)肝臓と脂肪に対するGluOCの代謝改善作用はGLP-1を介する経路が優位であることを示した点である。GLP-1受容体欠損マウス、あるいはGLP-1受容体阻害薬を投与したマウスに対して継続的にGluOCを経口投与すると、耐糖能の悪化と脂肪細胞の肥大が見られた。単離ラ氏島を用いた実験から、耐糖能悪化はインスリン分泌低下によるものではなく、肝臓における糖新生亢進によるものであることが明らかになった。(4)妊娠母体が摂取するGluOCにより、成熟後の雌仔の肥満や糖脂質代謝の改善が認められる機序について、遺伝子発現のエピゲノム制御(特に、DNAメチル化修飾)に焦点を当てた解析を行った。網羅的メチル化解析の結果、雌仔の肝臓において、妊娠母体の糖脂質負荷およびGluOC飲用の有無によって、仔の肝Glycogen phosphorylase(Pygl)遺伝子プロモーター領域のメチル化レベルに変化が生じ、その発現が制御されていることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
29年度に設定した目標:① GluOCがα細胞に直接作用し、GLP-1産生への変換酵素PC1/3発現上昇に至るまでの道筋の解明 ②高濃度GluOC添加により脂肪細胞(3T3-L1)がnecroptosisを起こすメカニズムを解析すること ③GluOCによる代謝改善効果はGPRC6Aを介した直接作用とGLP-1を介した作用のどちらが優位であるかを検討することの3点について、順調に研究実績をあげていることから、その様に判断できる。また、当初の目標にはなかったが、妊娠母体が摂取するGluOCにより、成熟後の雌仔の肥満や糖脂質代謝の改善が認められる機序について、遺伝子発現のエピゲノム制御の観点からの解析に着手し、一定の成果が得られたことなどからも、順調に進捗していると判断できる。
今後は、下記について重点的に検討する。(1)PC1/3 発現調節への関与が知られるSTAT3シグナルに着目しながらPcsk1nの発現調節機構とあわせてα細胞においてGluOCが機能するシグナル経路同定を目指す。(2)高濃度OCによる3T3-L1脂肪細胞へのネクロトーシス誘導機序を分子レベルでさらに追究する。特に低濃度ではなく、高濃度OCにより脂肪細胞にFoxO1の発現量が亢進するメカニズムをCREBとp300の相互作用に着目し、ChIPやHTRFなどの手法を用いて明らかにする。(3)GLP-1を介した作用が大きいと見られる肝臓と脂肪について、Hepa1-6細胞(マウス肝細胞)と3T3-L1細胞(脂肪細胞)を用いてGluOC刺激以降のシグナリングに関わる事が予測される分子群の反応を比較検討する。(4)妊娠母体が摂取する栄養やGluOCが胎児肝Pygl遺伝子のメチル化を制御するメカニズムについて、バイサルファイト法、レポーターアッセイ等により明らかにする。また、そのDNAメチル化変化が成熟期まで長期に記憶されていることを証明する。
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