研究課題
(1)GluOCが培養した膵臓alpha細胞様細胞に直接作用してGLP-1分泌量を修飾する機序解明を進展させた。GluOCによるGLP-1産生への変換酵素PC1/3の発現の促進や、PC1/3の内在性阻害因子Pcsk1n遺伝子の発現抑制には、転写因子Pax6の発現上昇や、成熟alpha細胞マーカーの発現低下、すなわちalpha細胞の未成熟化が関与することを示唆する結果を得た。(2)GluOCによって脂肪細胞にnecroptosisが誘導される分子メカニズムを検討した。GluOCによるcAMPの産生とPKAの活性化→核内PKA触媒サブユニットによるSIK2の不活化とヒストンアセチルトランスフェラーゼp300の活性化→転写因子FoxO1とFasLの発現亢進→Fasシグナルの活性化→脂肪細胞におけるカルシウム流入・活性酸素産生・ミトコンドリア分裂→細胞死という経路であることを解明した。(3)GluOCによる代謝改善作用はGLP-1シグナルを介することを解明した。GLP-1受容体欠損マウスではGluOC刺激により糖新生酵素の発現を調節する転写因子FoxO1およびコアクチベーターであるPGC1alphaの発現が上昇し、糖新生が増強するが、GLP-1シグナルがそれらを抑制し、生体内でバランスをとっていることが分かった。(4)母親の妊娠中の栄養状態による仔の肝Glycogen phosphorylase(Pygl)遺伝子発現について、当該遺伝子のプロモーター領域のエピゲノム変化の検証を行い、受容体型転写因子であるAhr(Arylhydrocarbon receptor)結合領域のDNAメチル化レベルが発現制御のオン/オフを司っていることを見出した。また、マウス肝癌Hepa1c1c7細胞を用いたin vitro解析で、GluOCがリガンド非依存性のAhr経路の活性化を介したPygl発現制御をおこなっている可能性を証明した。
2: おおむね順調に進展している
30年度には①GluOCがalpha細胞に直接作用し、グルカゴン産生からGLP-1産生へと変換させる転写因子群の解明 ②高濃度GluOCにより脂肪細胞(3T3-L1)がnecroptosisを起こすメカニズムを分子レベルで解明 ③GluOCによる代謝改善効果はGLP-1を介した作用が優位であることをGLP-1受容体の欠損マウスを用いて解明 ④妊娠母体が摂取する栄養やGluOCが胎児肝Pygl遺伝子のメチル化を制御するメカニズムを明らかにしたことの4点について、順調に研究実績をあげていることから、概ね計画通りに研究は進展していると判断できる。また、当初の目標にはなかったが、GluOCのマウスの自発運動に及ぼす影響について検討したところ、運動に対するモチベーションに加えて運動能力も高める作用があることが分かったことなどからも、順調に進捗していると判断できる。
今後は、下記について重点的に検討する。(1)GluOCによるalpha細胞における産生ホルモンの転換について、関与する転写因子群の発現を調節するシグナル経路を同定し、機序の全体像の解明を目指す。(2)GluOCによる代謝改善効果において性差が生じる原因、とくにテストステロンの影響に関して解析を行う。予備的解析で最も顕著な影響が現れた脂肪組織と肝臓を中心に、テストステロン濃度を調整したマウスを作成して糖・脂質代謝関連遺伝子群の発現変化を網羅的に解析し、変調の分子基盤の解明を目指す。(3)妊娠母体へのGluOC投与が、GluOCを直接投与していない成熟後の仔の肝Pygl発現を増強させているメカニズムについて、仔の肝GluOC発現制御にも着目しながら解析する。(4)GluOCが運動に対するモチベーションを高めるメカニズムについて、脳内報酬系の活性化に着目しながら検討する。また、GluOCが糖代謝の亢進に関与する機構に関して、骨格筋細胞に特化したメカニズムを探る。
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