研究課題
上皮系の陥入によって生じる器官形成のメカニズムを明らかにする為に、各器官(歯、唾液腺、肺、腎臓、毛等)の発生段階における遺伝子発現を網羅的に解析することを試みた。これまで当研究室で実施していたマイクロアレーを用いた手法に加え、遺伝子の転写活性を手法としたスクリーニングとしてCAGE法を用いて、歯、毛、および唾液腺組織での遺伝子転写量の解析を行い、新たか候補遺伝子の同定に成功した。更に切歯および臼歯から細胞を調整し、それぞれ約6000細胞を用いて、single cell RNAsequenceを行い、個々の細胞がどのような遺伝子をどの程度発現しているのかを明らかにした。昨年度から継続しているsingle cell RNAsequence解析に関して、歯の発生段階における全てのステージにおいて解析を行ない、現時点で約3万細胞における遺伝子データベースの構築を行なった。これらのスクリーニングの中で同定した新規分子について、特に歯特異的転写因子AmeloDに関しては、AmeloDが歯原性上皮細胞の幹細胞から内エナメル上皮に分化する移行時期に特異的に発現することを免疫組織学的に明らかにした。さらにAmeloD欠損マウスにおいては、歯全体が小さくなり、上皮細胞の移動に重要な役割を演じていることを明らかにした。またCAGEを用いた解析においては、歯胚特異的な転写開始点の同定に成功し、特にmRNAのみならず、microRNAの転写開始点の同定とともに、これら転写されるmicroRNAが歯胚形成過程に極めて重要な役割を演じていることを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
これまでの包括的な遺伝子スクリーニングにより、歯胚および唾液腺に発現する遺伝子群の発生段階での発現パターンを網羅的に明らかにすることができた。特にこれまで不明であった中間層、星状網の細胞における分化マーカーの同定と実際の組織内での発現パターンを明らかのすることができた。このことにより、単一の上皮幹細胞から各細胞への分化の方向性を厳密な遺伝子発現によって検討することが可能となった。また個々の分子に関しては、いくつかの分子において遺伝子改変マウスを作製し、いずれのマウスににおいてもエナメル質形成不全症を呈することを確認している。これら分子群は、主にエナメル芽細胞の分化過程において発現している分子であり、初期段階から最終分化段階まで、段階的に発現している分子を連続的に欠損させていることから、エナメル芽細胞の分化過程をより詳細に解析できる準備が整った。研究当初より進めているSox21の解析に関しては、Sox21-Anapc10-Skip2-E-cadherinという分子カスケードの同定に成功し、Sox21の欠損がどのようにして上皮ー間葉転換(EMT)に関わるかを詳細に解明することができた。これらの知見は、歯の発生のみならず、癌の浸潤や進展にも関わることから、歯の発生研究から癌抑制につながる新たな情報を提供できる可能性がでてきた。
これまで作成した包括的な遺伝子データベースをより詳細に解析する必要があり、データベースの整備(大規模データの分割化)を行なうことで、より簡便なデータスクリーニング法の構築をはかる。特にデータベース管理やデータ解析の専門家を配置し、歯特異的分子の新たな同定に向けた取り組みを実施する。個々に同定した分子に関しては、siRNAや機能阻害ペプチドを用いて歯関連細胞、歯および唾液腺胚の器官培養系を用いて、発生過程に及ぼす影響を検討する。これらのスクリーニングの中で細胞分化や器官発生に影響を及ぼす分子に関しては、遺伝子改変によるノックアウト動物の作成を行なう。既にこれらのスクリーニングが完了し、遺伝子改変マウスの作成ができているAmeloDやGPR115等については、個々のマウスモデルにおける歯の表現系解析を継続するとともに、我々が既に保有するAmbn、Epfn/Sp6、Sox21欠損マウスとの掛け合わせにより、分子間相互作用を個体レベルで評価することで、歯の発生過程における役割解明を実施する。これらの知見を元に、iPS細胞やES細胞からの人為的な器官誘導法の開発に繋げる。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件)
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