研究課題/領域番号 |
17H01606
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
福本 敏 九州大学, 歯学研究院, 教授 (30264253)
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研究分担者 |
保住 建太郎 北里大学, 北里大学保健衛生専門学院, 講師 (10453804)
犬塚 博之 東北大学, 歯学研究科, 准教授 (20335863)
江草 宏 東北大学, 歯学研究科, 教授 (30379078)
阪井 丘芳 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (90379082)
山田 亜矢 東北大学, 歯学研究科, 准教授 (40295085)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 歯 / エナメル芽細胞 / 器官発生 / 遺伝子スクリーニング |
研究実績の概要 |
上皮系の陥入によって生じる器官形成のメカニズムを明らかにする為に、各器官(歯、唾液腺、肺、腎臓、毛等)の発生段階における遺伝子発現を網羅的に解析 することを試みた。これまで当研究室で実施していたマイクロアレーを用いた手法に加え、遺伝子の転写活性を手法としたスクリーニングとしてCAGE法を用い て、歯、毛、および唾液腺組織での遺伝子転写量の解析を行い、新たか候補遺伝子の同定に成功した。更に切歯および臼歯から細胞を調整し、それぞれ約6000細 胞を用いて、single cell RNAsequenceを行い、個々の細胞がどのような遺伝子をどの程度発現しているのかを明らかにした。継続実施しているsingle cell RNAsequence解析に関して、歯の発生段階における全てのステージにおいて解析を行ない、現時点で約3万細胞における遺伝子データベースの構築を行なっ た。 これらに解析から、陥入上皮によって形成される内エナメル上皮から分化するエナメル芽細胞については、遺伝子発現パターンの異なる2種類の細胞が存在することが明らかとなった。この2種類の細胞は一つがDSPP陽性エナメル芽細胞、もう一つはアメロブラスチン陽性エナメル芽細胞であった。いずれの細胞も、これまで報告されているエナメル芽細胞マーカーであるアメロジェニン、エナメリンを高発現している。これらの細胞機能に関しては、その遺伝子発現のパターンから、DSPP陽性細胞はWntなどの増殖因子等を分泌する細胞機能を有しており、 アメロブラスチン陽性細胞においては細胞骨格の維持に関わる細胞であることが判明した。これらのことから、これまで単一の細胞と考えられていた細胞種が、それぞれ異なる機能を有しながら、相互に機能を補完しながらエナメル質形成に関わっていることを発見するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
包括的な複数の遺伝子スクリーニングを組み合わせることで、歯の発生段階における遺伝子発現と細胞の分化過程を把握することができた。特にこれまで、内エナメル上皮ー分泌期エナメル芽細胞ー成熟期エナメル芽細胞と3段階の分化過程が知られていたが、それぞれの細胞集団においても複数の機能を有する細胞の複合体(分泌期においてはDSPP陽性およびアメロブラスチン陽性エナメル芽細胞)として機能しているという新しい概念を提示することができた。 またこれらの解析において、特にCAGEを用いた方法においては、mRNAのみならずsmall RNAの発現制御についても検討することができた。歯の発生段階において高い発現を示すmiR-875については、神経堤由来間歯細胞に発現し、上皮細胞周囲への集積と上皮ー間葉相互作用の起点となる遺伝子発現制御に関わっていることが分かった。このようにこれまでの解析手法では明らかとならなかった新たな生命現象についても解析できるデータの集積ができた。 さらに陥入上皮の分化過程において、成熟期エナメル芽細胞はエナメル質の石灰化や分泌した細胞外基質の分解と再吸収に関与していることが知られていたが、この細胞集団においても新たな発現分子の同定に成功した。GPR115はG蛋白共役分子の一つとして知られているが、その分子機能は全く不明であった。しかしながらエナメル芽細胞および象牙芽細胞に特異的に発現すること、さらには本分子がハイドロキシアパタイトの成熟過程に生成される水素イオンの中和に関わっていることを発見した。これまでエナメル質形成過程において、なぜハイドロキシアパタイトが成熟できるのかについては、十分理解されていなかったが、本研究成果によりその一部を解明することができた。
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今後の研究の推進方策 |
歯および唾液腺等の発生段階における包括的遺伝子スクリーニング(マイクロアレイ、RNAシークエンス、single RNAシークエンス、CAGE法)を用いて、数多くの器官特異的、時期特異的分子の発現パターンを網羅することができた。特にエナメル上皮の分化過程に関しては、分泌期および成熟期エナメル芽細胞における機能分離によるエナメル質形成の効率化、リン酸オクタカルシウムからハイドロキシアパタイト形成過程における水素イオンの代謝機構など新たな生命現象の解明に成功した。 陥入上皮が内エナメル芽細胞に分化する過程においては、上皮幹細胞から一時的に増殖が更新するTA細胞を経て、部分的な極性を持った内エナメル上皮に分化する。しかしながらこれらの過程においては、幹細胞においてSox2が、TA細胞以降に関してはAmeoDやEpiprofinといった転写因子が発現することが分かっているが、これら分子の相互作用、さらにはどのようにして上皮幹細胞から歯を形成する細胞へと分化するのか十分に理解されてない。そこでAmeoDおよびEpiprofinの遺伝子改変マウス、さらにこれらのマウスの掛け合わせにより、上皮幹細胞からの分化過程を明らかにする。これらの分子を制御することで、人為的な歯の形成技術の開発につなげる。
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