研究課題
本研究の目的は、アジア(ヒマラヤ)の山岳域において樹木年輪とアイスコアを併用して、低標高から高度6000m付近に至る広高度帯で気候復元を行い、気候変動の高度依存性を解明することである。今年度は、ネパール東部のマカルーで新たに年輪サンプルを収集した。過去3年間のフィールドワークによって、ネパールヒマラヤの西部、中部、東部をカバーする計4地域から、標高1800-3900mの高度帯で年輪サンプルを取得するに至った。樹木の生育環境や樹種の特性によって、採取した年輪サンプルから過去に遡及できる期間が200-400年となっている。持ち帰ったサンプルは、各地域で4-5個体を対象とし、その年輪セルロースの酸素同位体比を個体別に1年単位でそれぞれ測定して時系列データを取得した。また昨年度に引き続き、共同研究の推進と分析技術の移転のため、ネパールの研究者を約3週間にわたって日本に招聘してデータの収集を進めた。一方、本年度は、もうひとつの分析対象であるアイスコアの掘削に集中的に取り組んだ。過去2年間の経験を踏まえ、十分に準備を整えたうえで、2019年10-11月にネパールヒマラヤのトランバウ氷河においてアイスコアを掘削した。その結果、当初の計画通り標高約6000m地点にて、81.2m長のアイスコアを採取することに成功した。2017年度と2018年度の試掘削で採取したアイスコアの解析結果から、今年度に採取した81.2mのアイスコアから、過去160年超に遡って気候・環境変動を復元できる見通しが得られた。また、アイスコアには全体の12.9%を占める層で多数のダストが存在した。深層部(70m以深)では中層部(40-50m深)に比べダスト層が多く存在し、その粒子径も中層部に比べて大きいことが確認できた。この結果は、時代により掘削地点へのダストの輸送量や輸送起源が変化している可能性を示唆している。
2: おおむね順調に進展している
過去3年におよぶネパールでの年輪調査は順調に進み、当初の予定よりも多くの地域で年輪サンプルを採取することができた。年輪サンプルの酸素同位体比データの取得についても、既に2地域で測定が完了しており、残りのサンプルについても2020年度中に測定できるよう処理を進めている。アイスコアについても2019年度に実施した本掘削が成功し、長さ80m超の良質なサンプルを収集できた。初期分析の結果、アイスコアの平均密度は866kg/m3で、仮に830kg/m3を氷化密度とした場合、深さ約12m地点から氷化していること、アイスコア全体の約87.9%を氷で占めていることがわかった。
樹木年輪については、残っているサンプルの酸素同位体比の測定を進め、標高別、地域別に気候を過去200-400年間にわたって復元して、気候変動の標高依存性や地域特性を明らかにする。アイスコアについては、水の安定同位体比や化学主成分、および鉛同位体比などの人為起源の大気汚物質を測定する。次いで、高度6000m地点における過去200年弱の降水量変動を含めた古環境変動の復元を行うとともに、人間活動と気候変動の関係についても考察する。また、最終目標として掲げた、気候変動の高度依存性を明らかにするため、高度6000mのアイスコアの記録と、異標高で採取された年輪試料の記録の比較解析を行う。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 14件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)
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