研究課題
ロシア連邦小児放射線防護研究センタ-(センタ-と略す)が実施しているチェルノブイリ原発事故による汚染地域住民とその子どもの健康診断、治療デ-タ及び医薬基盤・健康・栄養研究所(本研究所)野村によるマウス継世代影響研究試料を、臨床、病理学的、分子遺伝学的に調査し、放射線被ばくと未来世代における健康との相関を調査・研究した。COVID-19蔓延のため、現地調査は不可能であり、Web会議とe-mailによる調査とし、日本国内で実施可能な分子遺伝学的調査・研究を行った。1. 放射線被ばくの次世代に及ぼす健康影響調査:センタ-の調査より、小児期被ばくによる甲状腺がん高発に対し、被ばく住民の子供における小児特有のがん高発について、病理標本よりのDNA抽出の可否について討議した(野村、振津、研究協力者;本研究所 本行、センタ- Baleva, Sipyagina, Saphonova, Saakyan)。2. 分子レベルでの継世代影響調査:半世紀にわたる継世代マウス実験より、♂マウスに5GyのX線照射により次世代にがん、先天異常に加え遺伝的不安定性が50代以上にわたり、誘発される。遺伝的不安定性をヒト、マウスに1千万以上共存するマイクロサテライト(Msと略す)を指標に検出した。Ms変異を4つのMs座(pul, Mit, p1, p5)で検出し、34代目以降で複数個のMs変異が蓄積・重複している。非照射群では全て単発的であった。ヒト被ばく集団に関しては、センタ-のDNA試料に代って、旧ロシア核実験場周辺-セミパラチンスク(現カザフスタン)高濃度汚染地域及び非汚染地域住民とその子孫600人のDNAで、親子関係の明確なトリオを用い、Ms変異解析と被ばく群6トリオでのエキソ-ム解析を実施したが、DNMであるか確認作業が必須である(野村、梁、足立、笠井)。本研究所倫理委員会の承認済である。
2: おおむね順調に進展している
2019年12月中旬、中国武漢における新型コロナウィルス発生を知り、これまでのUNESCO、WHO主催の国際会議において、旧ソ連邦、特にロシアが重篤な感染症流入を防ぐため、直ちに国境封鎖、出入国を禁止した経緯から、我が国でも2020年1月初旬より蔓延の兆候を見せたCOVID-19のため、2020年2月に実施予定であったロシア訪問、被ばく資料調査、遺伝子変異検出用の試料収集に要する渡航費及び調査・採取費用を、次年度に繰り越した。しかし、2020年度に入っても状況は悪化の一途をたどり、研究実績の概況に示した如く、日本国内で実施できるように、マウス試料を用いたMs解析と旧ロシア核実験場周辺住民のMs解析とエキソ-ム解析に力を注いだ。又、センタ-と小児がんに関する臨床病理研究はWeb会議等で行い、十分な成果を挙げることが出来た。
1.放射線被ばくの次世代に及ぼす健康影響調査:チェルノブイリ事故被ばく者の子孫は、未だがん年齢に達しておらず、唯一、検出可能と思われるのは、小児期特有のがん(小児がん)である。がんに限らず、次世代での臨床症状を記録している内外の調査は、極めて稀で貴重である。臨床、病理、遺伝子変異を追求する研究を推進する方策として、パラフィンブロックよりのDNA抽出の討議を続ける。2.分子レベルでの継世代影響調査:継世代マウス実験において、子孫にがんが高率発生した。しかしながら、これまでマウスに見られなかった新しいがんが誘発されるのは極めて稀であった。誘発された珍しいがんには、新たな突然変異が誘発されており、殆どは、マウスに自然発生する種類のがんの頻度の上昇である。上昇した自然発生がんには、がん遺伝子の変異は殆どみられず、誘発されやすさの遺伝とみられるがp53変異はない。50代以上継代したことにより、複数個のMs変異が蓄積・重複した起因を分子遺伝学的に解析し、がん等発生との関連を調べる。又、原発事故後の継世代影響をも考慮し、♂マウスへの研究用原子炉(UTR-KINKI: 0.2Gy中性子線+0.2Gyγ線/hr)放射線照射による次世代影響(がん、発生異常他)に加え、Ms変異の関与を解析する。ヒト被ばく集団の子孫(セミパラチンスク)における各トリオについては、DNA残量・親子関係を確認し、検出するMs遺伝子座を決めて、Ms変異の解析を続ける。エキソ-ム解析については、DNA500ng以上ある被ばく群6トリオで解析継続可能かどうか検討する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 6件、 招待講演 6件)
Scientific Reports
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