研究課題/領域番号 |
17H01646
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
村上 恭通 愛媛大学, アジア古代産業考古学研究センター, 教授 (40239504)
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研究分担者 |
松本 圭太 九州大学, 人文科学研究院, 専門研究員 (00726549)
丹羽 崇史 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (40455564)
槙林 啓介 愛媛大学, 東アジア古代鉄文化研究センター, 准教授 (50403621)
臼杵 勲 札幌学院大学, 人文学部, 教授 (80211770)
荒 友里子 愛媛大学, 東アジア古代鉄文化研究センター, 特定研究員 (90783853)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルタイ / 遊牧・騎馬民族 / 製鉄 / 鉱産資源 / 森林資源 |
研究実績の概要 |
2年目となる2018年度は昨年に実施した踏査の成果またはそれ以前に発見した遺跡の調査成果に基づいて、アルタイ共和国、ハカス共和国、モンゴルにおいて発掘調査を実施した。アルタイ共和国では、前年度の踏査で確認したバリクトゥユル遺跡を発掘調査した。計5基の製鉄炉を検出し、その年代が放射性炭素年代測定の結果、2~4世紀であることがわかった。アルタイ共和国で製鉄炉の構造が明確に把握される初めての調査例となった。ハカス共和国ではトルチェヤ遺跡において小規模な発掘調査を実施し、製鉄炉を3基発見した。これらの炉のうち1基は紀元前1世紀のテシ文化期に遡ることが明らかとなった。またモンゴルではバヤンウルギー県のガンツ・モッド遺跡とウブス県のグング遺跡を発掘調査した。前者では設定した1つの調査区において大小2基の製鉄炉を検出し、小型製鉄炉が紀元前2世紀、大型製鉄炉が3世紀に属することがわかった。後者では2つの調査区を設定し、3基の大型製鉄炉を検出した。グング遺跡ではこれら以外にも著しく浸食を受けた地表面において12基の製鉄炉を確認できたが、調査終盤でクロップマークが製鉄炉の位置を示すことを突き止めた。そのクロップマークの数からすると30基近い製鉄炉が存在する可能性がある。地表で確認した平面形が楕円形を呈する小型製鉄炉が紀元前2世紀、発掘で検出した大型円形製鉄炉が3世紀代に属することが判明した。2018年度に発見した製鉄炉はすべて炉体となる土坑と作業用土坑が地下のトンネルで連結されるという構造をもっている。 2017年度、2018年度の発掘調査成果はタタールスタン共和国、韓国、カザフスタン、ロシアで開催された国際学術会議において報告した。なおモンゴルにおける調査プロジェクトについては、モンゴル考古学会より国際共同調査に対して送られる優秀賞を授与された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度までの調査成果を基に実施した2018年度のすべての発掘で製鉄炉を検出することができ、各遺跡で複数の形態を呈する製鉄炉とそれぞれに対応する年代情報が獲得できたことは、予想以上の成果である。とくにアルタイ共和国、モンゴル・アルタイにおける製鉄炉の発掘は両国において始めてとなる快挙であり、両国の学会からも高く評価され、アルタイ共和国の成果についてはロシア科学アカデミー考古学研究所・シベリア支部に招待され成果を報告し、モンゴルでの成果に対してはモンゴル考古学会より優秀賞を授与された。 いずれの地域で検出した製鉄炉はその平面形、構造について基本的な共通点を有しているものの、製鉄操業に関わる炉底付近の炉内構造に多様性があることもわかった。これが地域性、時代性を表す可能性が想定できるようになり、自然での調査・研究に対して明確な目的設定ができることも2018年度の調査成果を高く評価できる要素である。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題にあるアルタイを共有する4カ国のうち、ロシア・アルタイ共和国とモンゴルにおいては製鉄炉を発掘調査することができた。アルタイ共和国、バリクトゥユル遺跡の製鉄炉は紀元後の製鉄炉であり、さらに時代が遡る匈奴併行期の製鉄炉について明らかにする必要がある。またモンゴルで発掘したグング遺跡には30基以上の製鉄炉が存在することから、本遺跡についてはその分布を記録し、地表で確認される平面形が特徴的な炉については発掘を実施し、グング遺跡における製鉄炉の変遷について明らかにする必要がある。このグング遺跡の調査を2019年度に実施し、アルタイ共和国の調査については、2019年度にロシア科学アカデミー考古学研究所・シベリア支部のカウンターパートに踏査を委ね、発掘対象を選択し、2020年に発掘調査を実施する。 カザフスタンについては、2018年度までにカザフ国立大学考古学研究室のカウンターパートが踏査を実施し、東カザフスタンにおいてスラグ、炉壁の散布地を複数箇所確認した。2019年度はこの散布地においてカザフ国立大学とともに発掘調査を実施する。 中国新疆ウイグル地域における発掘調査については、現在も交渉を継続中である。外国の研究機関に対する調査許可がますます厳しくなる現状にある。ただし、モンゴル、バヤンウルギー県のガンツ・モッド遺跡は中国との国境まで10kmに迫っており、新彊側の製鉄炉に共通する点はきわめて多いことが想定できる。モンゴル科学アカデミー・考古学研究所のカウンターパートはさらに国境に近い地点でスラグ散布地を確認しており、これらの遺跡を調査することで中国アルタイの製鉄に関する様相を推定するという方策も考えなければならない。
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